in 【音楽室】

イントロダクション 1


 鮮やかな金色に染めた髪をくしゃくしゃと掻き回して、渉は不機嫌に廊下を進む。
 目的地は、3階の1番端にある、音楽室。

 放課後になって目が覚めると――渉にとって授業とは寝るための時間だ――、鞄の中に手紙が突っ込まれていた。放課後、音楽室で待っていると。

(めんどくせぇ…)

 とは思いつつも、臆病風に吹かれて逃げ出したとは思われたくないので、顔だけは出しておこうと思った。
 色艶めいたことは想像出来なかった。手紙の文字は、明らかに男のものだったから。

 肩に食い込むギターを担ぎ直したとき、背後から声がした。

「ああ、えっと、琴羽くん」
「んぁ?」

 呼び掛けられて振り向く。そこには校長が立っていて、何故かピンクの袋でラッピングされた小箱を差し出してきた。

「ハッピー・【クロッカス。・デイ】」
「…なんスか」

 校長にまず名前と顔を一致して覚えられているという時点で、渉には面白くない。
 不機嫌も露に低い声で聞いた渉に、けれど校長はたじろぐこともなく、ぐいとそれを突きつける。

「閑人が作ったものを渡して回ってるんだ。食べてみてくれないかい」
「食べる?」

 訝しみながらも箱を開くと、そこにはひとつのクッキーが入っていた。花の形で、チョコレートで書いてあるのは、

「『Eat Me!』…」

 随分とひとを食ったような装飾だ。どう見たって渉のキャラ性に合わない。そもそもクッキーなんて好んで食べるような類の性格でも嗜好でもない。

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