in 【屋上】

イントロダクション 2


 
「校長せんせが、作った、の?」
「そうだよ」
「すごい」

 クッキーなんて冴は作ろうとしたこともない。「いただきます」と呟いて、それからさくさくとそれを食べた。
 指についたカスまで舐めて、校長を見上げる。

「おいしかった、です。ありがとうございます」
「それは良かった」
「…みんなに、配ってるんです、か?」
「ん、まぁそんな感じかな」
「校長せんせ、いいお嫁さんになれますね」
「…、そう、かな」

 なんだか言葉の選択を間違ったかもしれない。微妙な顔をする彼に、冴は首を傾げた。
 すると彼は困ったように笑って、


「ハッピー・【クロッカス。・デイ】」


と繰り返すと、冴の横を擦り抜けて階段へと身を翻す。

「いい記念日を」

 冴はその背中に声を掛けて、彼と入れ違いに屋上へと上がってきた人物に、目を細めた。


***


「校長、どちらへ?」
「うん。この良き日にたくさん可愛がってもらえる幸せな子達に、先駆けてプレゼントを」
「ああ、今日でしたか」
「そう。たっぷり楽しめるようにね。やっぱりせっかくのフィニッシュに、順番の問題で『出ない』ってのは興ざめだろう? ついでに、大切なトコロで感じられるように、ちょっとね」
「相変わらずド鬼畜のド変態ですね」
「今更だ」

 教頭との会話を薄笑いの内に終らせて、校長は彼らに向けてそっと呟く。


「では、3月20日を楽しんで下さい」



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