in 【屋上】 イントロダクション 1 カメラを片手に、冴は階段を昇る。 空が好きだ。 色々な表情を見せてくれる、雄大な空が大好きだった。 「ん…校長せんせ…?」 屋上への扉を開けた途端、風に黒の猫っ毛が踊って、その隙間から予想もしていなかった人物の姿を見留め、冴は少しだけ眉を上げる。 校長は振り向くと、にこりと笑った。 こんな顔のひとだったかな、なんて思いながら、冴は歩いて近付く。 「どうか、したんですか?」 今まで何度も屋上に来ているが、彼がこんなところにいたことはない。 けれど校長は意に介す様子もなく、ピンク色の袋でラッピングされた小箱を差し出した。 「ハッピー・【クロッカス。・デイ】」 「? なんですか、それ…?」 聞いたこともない単語に、冴は首を傾げる。 「記念日なんだ」 「あ、おめでとう、ございます」 ぺこりと頭を下げる冴。校長は相変わらず小箱を突き出したままだ。 「…それで、これを君に」 「おれ? いいんです、か?」 冴が見上げると、校長はにこにこと肯いた。 正直、後が面倒そうなので受け取りたくはなかったが、仕方がない。 「ありがと…ございます」 「開けてみてくれないかい?」 「…はい」 促されて開くと、そこにはひとつのクッキーが入っていた。クロッカスの花の形で、真ん中にチョコレートで『Eat Me!』と書いてある。 「…かわいい」 「食べてみて」 [*前] | [次#] /144 『頂き物』へ / >>TOP |