in 【教室】

伊武 秀一の場合 2


 秀一は穏やかに笑って、「いいですよ、そのままで」と『何も知らない憧れの先輩』を装う。
 その先輩の接近に、恒太はひとしきり慌てたあと、衣服が整えられていることやさっきの相手がいないことにようやく思い至ったようで、なんとか取り繕おうと努めた。

「たまたま通りかかったら、誰もいない教室でぼんやりしてる大島くんが見えたから、どうしたのかなって」

 一歩一歩、じりじりと焦らすように近付いていく。
 恒太の視線がうろうろと秀一の足元をさまよう。

「え、えっ、と…」
「どこか具合が悪いのかなって、そう思ったんですけど」

 するりと恒太の肩に手を置いて、滑るようにして彼の背後に回り込み、そっとその首に腕を巻きつけて、耳に唇を寄せる。


「教室に入ったら、えっちなニオイがしたものですから」
「ッ!!」


 びくん、と面白いくらいに恒太の肩が跳ねる。
 こうも思い通りになる小動物のような彼が、少しだけ、愛しく思えた。

「大島くんからも、えっちなニオイがしますね…ねぇ、教室で何してたんです…?」
「っそ、それ、は…ッ」

 目にいっぱいの涙をたたえて震える恒太に、秀一は愉快でたまらない。


 ねぇ、どんな気持ちですか?
 尊敬する先輩に、自分の1番ぐちゃぐちゃなところ晒け出されちゃった、今の気持ちは?



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