in 【音楽室】

秋山 貢の場合 2


 あまりの緊張に指が冷たくなって、放課後に入ってもしばらく赴くことができなかった。

 ようやく意を決して向かったそこで貢が見たのは、何故か床に臥せって眠る、渉。


「こ、こ、琴羽くんっ?!」


 慌てて近付くと、「ん…」と色っぽい声を漏らして、渉が瞼を開く。

 その瞳が貢を映すと、「!」カッと渉は完全に覚醒して、慌てて飛び起き、すぐに腰を押さえて呻いた。


 その姿に、貢は見た覚えがあった。

 男同士で激しくセックスをしたあと、ネコという女役は大体腰の鈍い痛みに襲われるのだ。ゲイの体験記ブログに載っていた。あと女性向けのBL小説でもよくある描写だ。


 と、いうことは、渉は今まで誰かとセックスをしていたという事だろうか。


「〜〜ッ!」


 一気に沸騰しそうになる貢の頭とは裏腹に、渉は気怠げに髪を掻き上げると、小さく呻きながらゆるゆると立ち上がろうとした。

「ぅ…、なんで、お前がいんだよ…秋山…」

「あっえっあっ、あの、えっと、その、ぼ、僕が、その、琴羽くんに、手紙、を」

「手紙…。あー…、あれ、お前か…。なんだよ…?」


 ふらふらとピアノに手をついて体重を支えながらも、何事もなかったかのように貢と対峙する、渉。

 そう言えば、頬には涙の跡が。


 どくどくと心臓が煩くなって、気付いたら貢の両手は渉の肩を掴み、彼の躯をピアノの上に押し倒していた。

 バランスを崩した渉の手が、勢いよく鍵盤を叩く。


 ジャー…ン!!


「ひっ!」

「ッてぇ…なにすんだよ…。ったく、半泣きになるくらいならすんなっつの…殴らねぇよ、これぐらいで」

 貢が涙目になったのはただ大音量に驚いてすくんだだけだが、渉はそう言って苦笑した。

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