小説 受side 01 覚えているのは、追い越して行った白いバンから男が飛び出してきたところまで。 いきなり口を塞がれて、驚いて息を吸った途端にふっと意識が下から引っ張られるみたいにしてなくなった。 そして目を開いたら、どこかの倉庫みたいな、打ちっぱなしのコンクリートの上に何故か素っ裸で寝ていて。冷えたのだろうか、少し下腹に違和感がある。 「…?」 俺はまだ少しくらくらする頭で、周囲を見回した。 何もない。 ――追い剥ぎ? …まさか、拉致? このままどこかの国に連れていかれてしまうのだろうか? そう思ったとき、共に歩いていた親友の顔が浮かんだ。 「ッ! 渉?!」 探す。暗い。いない。呼ぶ。応えない。 「渉!」 「あー起きたみたいだね? 結構しっかり吸ったみたいだから心配してたんだ」 まぁそれが良かったみたいだけど、と体格のいい、20代も後半くらいの男が現れて言った。暗くてよく判らないが、その方向にドアでもあるのだろう。 床に座り込んだまま後退さった俺に、その男はにこりと笑う。 「君達、本当に可愛いねぇ」 君、達。 「やっぱり渉も?! 渉は…ッ!」 戦慄した俺に構わず、男は俺に近付いて、くしゃくしゃと頭を撫でた。咄嗟にその腕を振り払うと、男の表情が薄暗い笑みに彩られた。 征服者の、表情。 ぴり、と俺の躯が震える。逆らってはいけないと、本能が告げる。 「矢野渉くん? 違う部屋にいるよ、佐々木――裕太くん」 「!」 名前。そう言えば、服も荷物も奪われているのだ。免許証なりなんなり物色すれば、個人情報は筒抜けになってしまうだろう。 [*前] | [次#] /25 『頂き物』へ / >>TOP |