in 【屋上】

鈴木 翔の場合 2


 
「こんにちは…」

 いつも通りの眠そうな表情。どこかぎこちないような感じがするのは、校医というあまり会わない立場だからだろうか。そう思いながらも翔はにこにこと冴に近付いた。

「ここに居るって聞いてね」
「…おれ、まだ風邪、引いてない、です」

 舌っ足らずに喋る冴は、半袖のTシャツ1枚。3月も下旬だとは言えども、確かに風邪を引きかねない格好だ。
 冴の的を射たようで突飛な発言に、思わず翔は笑う。

「そうだね。じゃあ引かないようにしなくちゃ」
「服、濡れちゃって」

 翔が斜め後ろにまで近付くと、ようやく冴も立ち上がってフェンスを背にし、長身の翔を見上げた。

「…? 鈴木せんせ、おれになにか、用ですか?」
「うん。この間の体育で、体力測定をしたよね。その数値で、ちょっと平木くんの胸に、異常が疑われてね」

 体育の授業で、ランニングマシーンを使った脈拍の上昇速度を見る簡単な測定をしていたことは調査済みだ。ちなみに異常などなにもなかった。
 ぼんやりした顔のまま、こてんと冴が首を傾げる。

「異常」
「疑いだから、はっきりしたことは判らない。だから今日、少しだけ、触診させてもらおうと思って」

 いいかな? と訊くと、全く躊躇うこともなく冴は肯いた。

 翔は内心で拳を握りながら、白衣のポケットから小さなケースを出して、中のクリームを両人差し指の先に掬い取る。

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