混濁

04



「ひぅ…ッ、ゃ、やだ…っ、やだッ…!」
「遊糸」
「っ?!」

 突如橘の声音が低くなって、びくりと躯が強張った。怒ったような、それを押し殺しているかのような、低い声。
 恐る恐る振り向くと、橘の不健康そうな薄い唇が、遊糸に最後通告を与えた。


「逃げないと、君は言ったはずだよ」


「──ッ!」

 何度も見逃されてきた所為ですっかり忘れていたが、遊糸は今、『嫌だ』などと言える立場では、なかったのだ。
 唇を噛み締めた遊糸に、嘘のような穏やかな笑みを向けて、橘が言う。

「ごめんなさいは?」
「…ッ、ご、ごめん、なさい…」

 屈辱だ。
 有り得ない。

 そうは思っても、抵抗する術などなかった。自分の所為で、誰かが霙のような目に遭うことは、絶対に避けなければならない。

──気持ち悪いだけだ…。

 耐えれば終る。奇しくも遊糸は霙と同じことを考えて、なんとか乗り切ろうと気持ちを切り替えようと努めた。

 だが、人間の気持ちというのはそんなに単純なものではない。
 ましてや、躯に違和を与えられ続ければ、なおさらだ。

「いい子だ、遊糸…」

 橘は遊糸を抱き起こすと、脚の間に膝立ちにさせて、キスをした。

「んぅ…っ」

 唇を弄ぶようにして食まれ、溢れそうな唾液を舌で掬い取られ、吸い出された舌を甘く噛まれる。何度も何度も角度を変えて、キスが続く。

 男同士で。
 父子、で。

「ふ、ん…っ、ン、ゥ…っ」

 キスの間にも橘の手は遊糸の躯をまさぐり続け、片手は乳首を抓んでは転がし、片手は蕾の浅いところをぬぷぬぷと何度も刺激している。

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