隣の子 02 もちろん、友達は別だ。日常生活で困ることなどほとんどない。けれど、不意の瞬間に、嫌悪感と共に蕾が疼くのが判って、堪らなく苦しくなる。 二度とあんな思いはしたくない。見知らぬ男とふたりになることも避けたいほどに。 なのに、躯があの刺激を想起する。…欲している。 (なんで…っ!) 絶対に嫌だ。確かにそう思うのに、ひとりでは感じることのできない奥を、あんな、太くて、熱くて、硬いモノが、何度も突いて突いて、擦り上げて、掻き回して──…。 「っ、」 またヒクン、と蕾が収斂する。 ヒクン、ヒクン、ヒクンッ。 ──と、まん、な…、 「小高」 熱の上がる躯を持て余し戸惑うさなかに、声を掛けられた。 体育教諭の美濃川だ。まさに身体を鍛えるのが趣味という筋骨隆々の暑苦しい男で、霙にとっては以前からあまり近寄りたい類のタイプではなかった。 「はい…?」 「今、手は空いてるか? ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだが」 「…」 時間は放課後。久し振りに美術部に顔を出そうかと思っていたところではあるが、元より熱心に活動しているわけでもない。だが、 「赤坂と飯田にも声を掛けてるんだがな。倉庫の整理を頼まれて欲しいんだ。汚れるから、ジャージでな」 「…分かり、ました」 美濃川とふたりならば断ったところだが、クラスメイト達もいるなら。 教師からの頼まれごとを断るとあとが面倒だ。さっさと終らせてしまおうと考え、霙はひとつ頷いた。 それが間違いだった。 薄暗い体育倉庫は、美術部の霙にとってはそれこそ体育の授業のときにしか足を踏み入れることもない場所。まだ他のクラスメイト達は到着していないらしい。 入り口の壁際にあるのだろうスイッチを手探りしていると、半袖のぴったりと身体のラインが浮き出る白Tシャツ姿の美濃川がやってきた。 「なんだ、小高だけか?」 (いやだ、な…) 生理的な嫌悪感、とはこういうことを言うのだろうか。 [*前] | [次#] 『カゲロウ』目次へ / 品書へ |