絡まる糸

12


 
***

 現実味が、伴わない。

 橘がリビングを去ってからも、自らの中に埋まっているものの所為で、動くことができない。
 少し動くだけで、躯の奥のなにかをグリッ、と刺激されて、頭の中が真っ白になる。それがなんなのかが判らないから、怖い。
 かと言って、このままの状態にしておくわけにもいかない。

「っ、!」

 気力を振り絞って、引き抜くべく玩具の先についている輪を探す。ちゃら、とそれが指先に触れて少し安堵した。
 その、矢先。

「お手伝い、しましょうか? 兄さん」

 背後から、くす、と笑う声。
 血の気が引く音を、聞いた気がした。

「お前…いつ、から」
「さあ、いつからかな…。とりあえず兄さんが気持ち良くなっちゃってぶっ飛んでから、ってことじゃないかな、兄さんが覚えてないなら」
「っ!」
「いやらしい…。どう? 自分でアナルパールなんか挿れちゃって。ほら、萎えてないよ?」
「ぁっ、くっ、さわ、…!」

 Tシャツにジャージパンツ姿のラフな格好の六花が、ソファの後ろから抱き込むようにして、無造作に花芯を指先でなぞる。それだけでぞくっと走り抜けるなにか、堪らず身をよじると躯の中を玩具が刺激した。

「んっ、ふ…」

 動けない。
 改めて実感したその事実に、戦慄する。ちゅ、と音を立てて耳にキスを落とされ、「っ!」咄嗟に逃げようとして、グリグリと躯の中が掻き回されて、声が掠れた。
 にィと口許に嫌な笑みを浮かべて、六花がソファを跨いで、遊糸の腹の上へと乗りかかる。両腕を持ち上げられて、腋の窪みへと舌を這わされる。

「〜っ! ば、か…っやめ、ろ…!」
「いいんだよ? 兄さん。僕からは、逃げてもいいんだ…」

 ちゅ、ちゅ、と音を立てて、唇が鎖骨、首筋、耳、目尻へと移動していく。
 柔らかな唇に触れられる度、ひく、ひく、と腹筋が動いてしまう。中の玩具が、あの場所を、押す。

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