絡まる糸

05


 深夜のことだ。
 自然と音を立てないように家へと戻った遊糸は、「──ッ?!」リビングのローテーブルの上に置いてあったものに、戦慄した。

 それは、アナルパール。
 いつか遊糸を苛み、また霙を犯した、性玩具だ。

 なるべくそのおぞましい性玩具から視線を逸らしながら、遊糸は自室へと入る。
 大きな南京錠は相変わらずで、ドアを開くと耳障りな音を立てた。
 服を脱げとか言われていたが、時計を見れば既に深夜2時を回っており、明日も学校に行こうと思えばもう風呂に入って休みたい時間だ。

「…あ」

 だったら、風呂に入るのを『服を脱いだ』ことに当てはめて、なんとかやり過ごせないだろうか。
 外国人なら裸で寝ることも普通だし、日本人でもヤった後なら──もちろん遊糸の中では男女で、だ──そのまま眠ることもあるだろう。
 そうしようと決めて、風呂場に飛び込む。
 しっかりと鍵をかけて、奴が入って来られないようにして。
 擦りガラスの向こう側に、影が現れないかと確認しながら、気を張って、素早くシャワー浴を終えて。
 バスタオルを纏ったまま、自室に戻ろうとして──リビングで、捕まった。

「おかえり、遊糸。偉いね、きちんと服を着ないで」
「っ」

 その手には、あの性玩具。しならされて曲線を描く姿が、卑猥でしかない。
 ソファに座ったままの橘が、遊糸を手招きする。
 遊糸はちらりと時計を見遣って、仕方なく脚を引きずってその傍へと寄る。

 脳裏に浮かぶは、海。霙。そして伊織。彼らを、守らなくてはならない。

 眉をしかめる遊糸に、橘はただ、笑ってソファの隣に座るように促した。肌に直接触れる合皮の感触に、震える。

「っあ、の…明日も、その、学校、で」

 早く寝たいのだと暗に告げる。橘は大きく肯いた。

「そうだね。早く寝ないといけない。父さんも明日の仕事が詰まっているからね、遊糸が頑張れば、早く終るよ」
「…ッ」


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