絡まる糸

02


 けれど、霙の様子は、そうではなかった。
 行為を、強要されたような怯えが、あった。
 男同士で躯を重ねることに対する嫌悪と、それを感じてしまう自分への絶望みたいなものがない交ぜになったような顔をしていた。

 同類だから感じる、とでもいうのだろうか。晶は気付いていないようだった。
 だから同じく『女役』であるらしい──普段の様子を見ていると、そんなことはまるで感じられないのだが──、そして霙のことを知っているらしい恭介に、その話をした。
 もしも霙が無理矢理に行為を強要されたのだとしたら、それを吐き出し乗り越える場が必要なのではないかと思って。
 過去に同じようなことを乗り越えた恭介なら、その吐き出す場になってもらえるのではないかと思って。

「デリケートなことだし。大抵の人間は俺が走ったような道にゃ行かねぇだろーとは思うけどさ。注意して見てみるよ。まあ、この通り部活なんかほとんど誰も来やしねーけどさ」
「…すみません、僕、なにもできなくて」

 気になってしまって、誰かに相談したかったのは、隼人の方だった。
 単に恭介の負担を増やしてしまっただけのような気が今更ながらしてきて、申し訳なくて後姿に頭を下げる。

「できる方がおかしいって。とやかく言うならまだしも、気ぃ付けとくくらいは別にいいだろ」

 淡々と言う恭介に、隼人は純粋に憧れる。強いひとだと思う。過去にあったことをあっけらかんと話されたときには、隼人は驚きと悔しさと悲しさでぼろぼろ泣いてしまったものだ。

 つらいことを乗り越えられたのは、彼が今、幸せだから。
 誰も来ないような美術部の活動を、彼が熱心に続ける、理由。

「なんだ、また恭介だけかー?」


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