絡まる糸

01


※橘・六花×遊糸(玩具/挿入なし)

 煌々と灯りのついた美術室で、少年がひとり、大きなキャンバスにナイフで絵の具を置いていく。
 隼人は黙って、その工程を眺める。
 コンクール前だというのに、美術室には少年と、隼人しかいなかった。
 正確に言うと、隼人も美術部の部員ではないから、少年しか真面目に活動をしている人間はいないということになる。

「…まあ、僕の…なんていうか、勝手な思い込みかも、しれないんですが」

 沈黙に耐えられなくなって、隼人がぽつりとこぼす。

「んー」

 隼人に背を向けたまま、少年は片手のパレットを置いて、空いた手をうなじにやった。焦げ茶色の脂気のない髪がさらりと揺れる。
 それからまたパレットを手に取り、ナイフで絵の具を取る。

「俺は霙がこっち側の人間だって思ったことはないけど。…でも、お前の観察力は、買ってる」
「え、えと。ありがとうございます、恭介」

 思いがけないところで褒められて、隼人は少年──葉山 恭介に礼を告げる。

 昨日、晶との帰り道で、会った少年。
 霙、と呼ばれていた彼の表情が、様子が、なにより雰囲気が、どうにも気になった。そしてその名前は偶然、友人の口から聞いた覚えがあったから、相談に来たという次第だ。

 自分は男だが、男である晶が、好きだと思う。傍に居たいと思うし、躯を重ねることも気持ちいい。
 元々はそんなつもりが一切なかった隼人が、そうした交際を受け入れる気になれたのは、この友人・恭介の存在があったからに他ならない。
 幸せそうな恭介に、そうした好きがあってもいいかと思えた。
 そう。恭介も男が好きで──そして、昨日会った霙も、男と躯を重ねた後のような、そうした雰囲気があったのだ。所謂『女役』の、色っぽさとでもいうのか。

──ぼ、僕にそんなものがあるかと言うと、あるはずないですけども…。

 恭介が見ていないのを良いことに、隼人は思わず顔を赤くして伏せる。なぜ晶があんなに愛してくれるのか、隼人には全く判らないが、それでも嬉しいと思うことは間違いない。

- 111 -
[*前] | [次#]

『カゲロウ』目次へ / 品書へ


 
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -