――カタン、カタタン。

昼下がり、揺れるつり革、人のまばらな電車内。
差し込む日の光が目に眩しい。

「―これで、よかったのよね、はるか。」

不意にした声の方を見る。
いいとこのお嬢さんばかりが通う女子校の制服の女の子が二人、座っていた。
一人は長くて黒い髪。
もう一人は肩をこえる程度の茶髪を後ろで一括りにしている。

「あなたの望むとおりに、すず。」

どうやら二人は主従関係にあるようだ。
すずと呼ばれた黒髪の女の子は、まっすぐ前を見据えたまま、泣いていた。
はらはらと落ちる涙の粒が昼下がりの光に反射して黄金色に輝いた。

「…ああ、来るわ。はるか、お願い。」

そう言って二人の女の子は席を立ち、通路で向かい合った。
従者であろう茶髪の女の子が一度目を閉じて再び開く。


その目に宿るのは――覚悟。


「これが、あなたの願いなら。」

茶髪の女の子がそれを言うのと同時、ガシャンと電車の窓が砕ける音と、軽い破裂音が耳をたたいた。

太陽の光を受けて輝くガラスの破片と女の子の涙。


…綺麗だと、思った。

スローモーションのように目に焼き付く光景だった。

そして、全ての音が途切れる頃には黒髪の女の子は地に伏していた。

「…自ら散ることを選んだか。」

今までいなかった仮面の男。
地に伏して事切れた女の子の前に立つ。
どうやら窓を破って入ってきたのはこいつのようだ。

男は女の子の亡骸を担ぎ上げ、茶髪の女の子には目もくれず、再び窓から飛び去っていった。

なんだったのか。
また、いつもの「夢」とは違う。
それにあの男、あの声を俺は知っている気がする。


「――助けて、かなた。」


小さく呟いた声が聞こえた。
ゴトン、と鈍い音を立てて、女の子の手からリボルバーが落ちる。
そして、女の子はうつむいたまま、取り出した懐剣で自らの髪を切り落とした。


「…おやすみ、はるか。」


そう呟いたのは目の前の女の子、でも、その声は先ほどまでとは違う、男の子の声だった。

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