チャイムの音、数式で埋まる黒板。
机の上には書きかけのノートと教科書。

ああ、そういえば数学の授業中だった。
はぁ、とため息をついて机に突っ伏す。
今回の「夢」はいつもと違った。

「夢」の登場人物は基本、俺には気づかない。なのに、彼女は…

「またトんでたの?アキバ。」

机の前にしゃがんでおれと目線を合わせてくる男にため息をつく。うざい。

「トんでた言うな。
掘られたみたいで嫌だ。」

「掘ってやろうか?」

「死ねや。」

幼馴染みに非道いこと言うなぁ、と奴は肩をすくめる。
俺からすれば酷いのはコイツの頭だ。


黒髪眼鏡、見た目だけはいいコイツは、
一部の腐ったお姉さん達からえらい人気である。
掛け算の相手は知るよしもない。
少なくとも俺ではない、多分。

「そんで?今回の「夢」は?」

「…ミタカ、お前は何でそう「夢」を気にする?」

いつもはぐらかされる問い。
今回もはぐらされるだろうなと思いながら眼鏡の奥の色素の薄い瞳を睨みつける。
奴は相も変わらず気にした風もなく笑う。
全く気にくわない。
「アキバの「夢」俺には有益なんだよね。」

「なんだそれ、」
問いただそうとした瞬間、ミタカの空気が変わった。

いつもの空気はどこへやら。
訳が分からん。

「それ聞いたらアキバ、
戻れなくなるよ。」

机の前でしゃがんだまま、ミタカは言う。

「俺、結構この生活気に入ってるんだ。
…壊したくない。
だからアキバ、聞かないで。」

ミタカは笑っているのに泣いているように見えた。

そんなミタカを見るのは初めてで、気が抜けた。

「…隠し事とはいい度胸だな。」

「…いつか、話すよ。
全部、終わったら。」

力なく笑うミタカの頭にこつんと拳をぶつける。

「気持ち悪いんだよ、このドS」

「なにアキバ、俺に責められたいドMなの?」

「……やっぱ、くたばれお前。」


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