青年は、はっとして音のした方に駆けた。
自分以外の誰かがいるのだ。
青年はほっとした。

これで帰る道を尋ねることができる。
この不思議な事象から解放されるのだ。

鈴の音は青年を導くように響く。
しかし音の源には一向に辿り着かない。

まるで目隠し鬼のかけ声のようだと、青年は思う。

それでも確実に鈴の音は大きく聞こえるようになってきた。
確実に近づいてはいるのだ。

ここに来て、青年はあることに気づく。
風鈴だ。

鈴の音は思いのほか、かしましい。
涼しげに響くこの音は鈴の音ではない。

寒気を覚えていた体は、いつの間にか落ち着いていた。
そう言えば久しく風鈴の音など聞いていなかった。
今度、風鈴をあの子の土産にしよう。
そう思考できるほどには心が落ち着いてきていた。
そして青年は人影を目に捉えた。
その姿は少女の姿であろうと思われた。

夏らしいワンピースの裾が翻るのを青年は見た。

呆然と青年はその姿を追う。
年の頃はあの子と同じくらいだろうか。
少女が駆けると手に持った風鈴がまた一つ鳴る。
駆ければ風を受ける分、かしましく鳴るだろうに、不思議と風鈴は穏やかに音を奏でた。


少女と青年、無言の追いかけっこが続く。

言葉を発そうと思えばできた。
問いたいことは沢山あったはずなのに、不思議と言葉にする気持ちは起きなかったのだ。

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