拝啓、どこにいるか分かったもんじゃない父さん。娘は今、大変困惑しております。いや、あんたのせいじゃないけど。
「お前が七番目か!ちっこいなー。」
帽子屋に導かれてやってきたお茶会にはレイシーさんと知らない人が一人。
銀の髪でバーテンダーみたいな格好のその人は興味津々と私に近寄ってきた。
ネクタイでリボン結びはどうかと思う。
つーか腰細っ!
「あたしはセリア。セリア・F・クロエ。六番目だ。」
…ほえ?六番目?
「……レイシーさん。」
「なにかしら?」
「…原作補正でフリフリヒラヒラって言ってましたよね。」
「?ええ、まぁ。」
腕を組んでセリアさんを上から下まで眺める。
白いブラウスに黒いネクタイでリボン結びをしている。
それから黒いスラックスに黒いギャルソンエプロン。
やっぱりバーテンダーだ。
そして、どこをどう見てもフリフリヒラヒラの欠片もない。
「レイシーさんの嘘つきぃぃぃぃぃぃ!
この人どう見てもフリフリヒラヒラとちがう!バーテンさんだよ!ずるい!」
びしっとセリアさんを指さしてレイシーさんに詰め寄る。
セリアさんがなんか呆れた顔でこっち見てるけどまぁ放置。
そんな場合ではない。
こんなの絶対おかしいよ!
「ずるいって言われても。セリアだって最初はフリフリヒラヒラだったのよー。
カスタマイズしてってああなったけど。」
やれやれとため息をついて頬杖をつくレイシーさん。
「ま じ で す か ?」
レイシーさんに食いかかった姿勢のままセリアさんを振り返れば青い顔をして斜め下に視線を逃がしていた。
「どーせ似合わないよ!あんなひらひら」
むう、と拗ねる姿はなかなか可愛いですよ、セリアさん。
ついでにレイシーさんが、そんなことなかったわよ?と笑ってるけど本筋ではないのでスルーさせていただく。
「いや、そうでなく。
なに、この衣装変えられるんですか?」
セリアさんの方を向いて本格的に話を聞く姿勢をとる。
「
…え、あ。うん。帽子屋がそういうの扱ってるから。」
「え、まじ?帽子屋?」
ぶしつけに帽子屋を指させばセリアさんは困った顔で頷いた。
帽子屋はあくまでニコニコと怪しい笑み。
「この不思議の国の帽子屋は、RPGで言うところの武器屋みたいな役割をしてるんだ。
RPG詳しくないからいまいちよくわからないけど。」
セリアさんの解説になるほど、と頷いて帽子屋をみる。
「主にどんなのおいてんの?」
「基本的にはオーダーメイドですよ。
お客様はあなた方しかいませんしね。」
にこり、と営業用っぽい笑みを浮かべている帽子屋に、
セリアさんは苦々しい顔をした。これはなにかある。
「あんたは自分の好きなもんしか作らないじゃないか。」
きっとあのバーテンさんになるまでに様々な苦労があったのだろう。
セリアさんは遠い目をして腕を組む。
「それが私の方針ですから。」
営業スマイルを崩さないまま帽子屋が言う。
…なんかこいつ危ないにおいがする。
危ない嗜好の持ち主だ。
顔をしかめる私に構わず帽子屋は続ける。
「あなたはなかなか面白いモデルだ、七番目。その濡れ羽のような黒髪。
その髪に見合う衣装をいつか作りたい。
…ただ、」
一度口を閉じる帽子屋。
そしてその刹那、顔に浮かぶ嘲笑。
「いかんせんあなたは足が短い。
くびれもないですし。」
「うるせえよ変態」
はーあ、と頬杖をついて言う帽子屋に蹴りをかませば、大げさにショックを受けたような仕草をした。うざい。
「変態とは失礼ですね。
紳士と言ってもらいたいものです。
それに女性が回し蹴りなどするものではありません。」
「黙れ変態。
全日本人を敵に回しやがって。
ガトリング砲ぶっ放す系女子にそんなもん関係ねーだろ。」
仁王立ちする私に帽子屋が楽しそうに目を細める。
「やはりあなたは実に面白い。
その化けの皮がはがれたかの如き凶暴性。
先ほどまでしおらしい少女だったというに。」
「よし、歯ぁ食いしばれ。」
素敵な夢の世界に誘ってやろう。
そういってニヤリと笑えばやんわりと逃げられる。ちっ、つまらん。
「仲良しねぇ。」
「ていうか、くびれのことは反論しないのな。」
私と帽子屋を傍目にレイシーさんとセリアさんが呟く。
「別に仲良くなんかないです。
くびれはですね、セリアさん。
ないものをあると言い張るよりむなしいことはないんです」
残念ながら、と付け加えればなんかかわいそうなもの見るような目で見られた。
…へこむわー。
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