沁みるのは
夕日が傾き、冷たくなった風がひゅうっと過ぎ去って行く。
銀髪の人に貸してもらったダウンに思わず顔を埋めた。声量を抑えて電話する声が耳を掠める。
この男の人の電話してる相手は煉獄さんだ。
この人は煉獄さんの仲間なんだ。
そういえば、あの日の夜、この人がバイクの前に立ちはだかったんだ、と思い出す。
煉獄さんの背中越しに会っていた。
煉獄さんの仲間。それだけで、体からへなへなと力が抜けて、安心感が沁み渡っていく。
煉獄さん、煉獄さん……会いたいなぁ。
彼の名前が、まるで魔法のように私の心を落ち着かせてくれる。
その時、「オイ」と銀髪の人に声をかけられた。
見上げれば、目の前に彼のスマホを突き出される。画面は通話中のままだ。
「煉獄だァ。声聞かせてやんな。」
無意識に震える手でそれを受け取って、冷たくなった耳に押し当てた。
『なまえ』
煉獄さんの声だ。
途端に心がじわりと暖かくなっていく。
返事をしようとするも、喉が震えて声が出ない。
『…なまえ?』
少し不安を帯びたその声に、ようやく返事を返した。
「煉獄、さん」
『あぁ…!大丈夫か?怪我はしてないか?』
「大丈夫。えっと、銀髪の人が助けてくれて…」
『不死川だな!とにかく無事ならよかった!!
……よもや、泣いているのか?』
もうとっくに涙は止まったはずなのに、悲しげに沈んだ煉獄さんの声には全てばれてしまっているかのようだった。
「泣いてないよ、大丈夫。」
『……そうか。怖かったな。もうすぐ着くから、不死川と待っていてくれ。』
「うん」
いまだ声に元気が無いせいか、『電話、繋げたままにしておくか?』と気遣ってくれる優しさが胸に沁みて、「大丈夫」と答え電話を切った。
暗くなった画面に少し寂しさを感じつつ、スマホを不死川さんに返す。
「ありがとう」
「アァ?礼言われることなんて何にも」
私の手からスマホを受け取った不死川さんの言葉が途切れた。見上げれば、強面の瞳と視線が合わさる。
私の顔を見て、優しく細められる目。
「……もう怖くねェみてェだな。」
煉獄のおかげかねェ、と笑う声音になんだか少し恥ずかしくなって、ダウンジャケットで赤くなりかけた頬を隠した。
遠くから、エンジンの音が聞こえる。
あの夜、私が乗ったバイクの音だ。
「ハッ!来たなァ!」
夕日の差す山道を黒いバイクが向かってくる。
風に揺れる金髪が眩しい。
バイクから降りて、不死川さんの隣に立った。