まるで檻


「来ないな!!!!」

チャイムの鳴った校門の前。
隣の煉獄杏寿郎が声高らかに言い放った。

「だなァ…」

俺の眠気を孕んだ声は、始業を告げるチャイムに掻き消される。
派手な大男二人組に興味と恐怖の入り混じった視線が幾つも向けられていたのは、もう数十分も前のこと。今俺たちの目の前で、開け放たれた門を通り過ぎる生徒は数えられるくらいしかいなかった。

「もう教室いるんじゃねぇの?見つけられなかっただけでよオ」

欠伸をしながら、もう入ろうぜと声をかけるも、煉獄は微動だにせずじっと前を見つめている。
まあこいつに限って探してるやつを見落とすなんて、あるわけねェけども。
今朝も何人もの登校生をかっ開いた目で見続けていた。でかい男2人にゴツいバイク、そんなのが校門前にいれば誰だって身を固くするが、超が付くほどどぎつい目力で見られりゃ誰も近づきもしなかった。

「むぅ…返信も、来ない。」

スマホのトーク画面を開いて肩を落とす煉獄。
片側にだけ、大量の吹き出しが見えたのはきっと俺の見間違いだ。

「昨日も会ったんだろ?1日くらい会えなくても気にすんなァ煉獄!」

「いや!会いたい!!あわよくば登下校も鞄持ちでいいから一緒にいたい!!」

「おめェは忠犬か!」

「うむ!忠犬か!!良いな!!!!」

「否定しろや!!」

俺たちの声が校庭に響き渡って、体育教師が走ってきた。
額に浮かぶ汗がきらりと光っている。

「お前ら!!学校来たと思ったらこんなとこで何やってんだ!!」

「センセ、いいところに。
こいつこっから引き剥がして」

未だまんじりと校門に立つ煉獄の腰を、ラグビーのタックルさながらに飛びかかる体育教師。
余程の衝撃を受けただろうに煉獄はぴくりとも動かない。
おし、教室戻ろう。
一限から数学のテストかよ。だりいな。

「この…煉獄!!いい加減教室に戻りなさい!
おい宇髄!お前も手伝え!!」

「あ?知るか」

全く煉獄にも困ったもんだ。
すっかり色に溺れた相方に俺はため息をついた。






そのころ。

どうも、今日もいい天気ですね。
早速ですが私、捕まっています。
どうやら煉獄さんにボコボコにされたらしい人たちに。
朝学校に行こうと通学路を歩いていたら、声をかけられました。
なーんか怪しいなと察して逃げようとしたけど手遅れで、背後から横から囲うように迫られればいとも簡単にワンボックスカーに引き摺り込まれてしまいました。
鞄もスマホも取られてしまった。
狭い車内はタバコの煙でけむっている。
嗅ぎ慣れない匂いにクラクラしてくる。
大音量の重音響く洋楽が耳を刺す。
クラブかここは。
なんで私こんな所にいるんだ。
こんな怖そうな人達に狙われるようなことなんて、平々凡々に生きる私には身に覚えがなさすぎる。
と、言いたいところだけどまあ原因は煉獄さんだろう。
どうやって逃げようかと考える私の耳に、「一発」とか「ハメ撮り」とか物騒な言葉が聞こえてきた。
逃げなきゃ、早く。
誰か助けて、なんて心が呟くけど、私がこんな目に合ってることを誰1人として知るわけが無い。
脳内に浮かぶ友達や煉獄さんを頭を振って追いやった。

「あの、トイレ…」

口を開いた瞬間、同乗した男たちの視線がぐりんっと集まって、思わず体が強張った。
ポイっと空のペットボトルを投げ渡される。
これに出せと。
一瞬思考停止した脳みそが、いいのか本当にこれに出すぞと怒りを覚え始めるけど、先程のハメ撮りという言葉を思い出して大人しくなる。
渡されたペットボトルを力なく握った。

あれからどれくらい時間が経ったのか、遮光シートを貼られた窓からじゃわからない。
「腹減ったな」という1人の男の声で、車が走り始めた。程なくして車が止まり、遮光シートの隙間から外を見れば見慣れた看板がここはコンビニだと教えてくれる。
もうちょっと珍しいお店なら、現在地がわかったかもしれないのに。点在するコンビニじゃどこまで連れてこられてしまったのか分からなかった。
ふぅ、と少しの絶望感と共にシートに身を預ければ、買い出しに出るメンバーが決まったのか、ドアがガチャンと開いた。
差し込む日光。
煙たい空間に新鮮な空気が入り込んできて、思わず開いたドアに顔を向けた。暗い車内に慣れた視界が一瞬ホワイトアウトした、と思ったら、バタン!と勢いよくドアが閉められる。
車内に残されたのは、私と両隣の男2人。
逃げられ……ないよなぁ。
シンと静まり返った車内で2人はスマホをいじっている。

「なぁ」

突然1人が口を開いて、思わずびくりと肩が跳ねた。トン、ともう1人に体がぶつかって舌打ちをされる。

「お前煉獄の女だろ」

にやりとした口調で話しかけてくる男に私は何も言い返せずにいると、もう1人の男が面白そうに声を上げた。

「思ったよりも地味じゃね」

「なぁ?エマさん振ったっつーからどんな女が相手かと思ったわ」

「なぁ、あいつどんなセックスすんだよ」

セッ…
フリーズする脳内。
そんなもん知るか、と心ばかり威勢よく叫ぶけど喉は張り付いたまま声は出なかった。
ガシッと後ろの男に腕を掴まれた。
心臓が縮こまって一瞬体が固まった隙に、両腕を押さえつけられてしまう。
そんな私を見て、2人は笑った。

「早漏だってよ!」

「おいちゃんとイかせてもらえてんの?」

下卑た笑いが車内に響く。
カチャリ、と目の前の男がベルトを外す音がして、背筋が冷たくなった。

「おい!やめとけって!」

「うっせーな、あいつらまだ戻ってこねえから大丈夫だよ!」

声を荒げる2人を尻目になんとか逃げ出せないかと視線を巡らせるも、狭い車内に逃げ場などなく。焦る心がだんだんパニックに陥っていって、意味もなく手足を振り回した。 
そんな私を面白がるように見た男は、私の腰に手を回してぐいっと持ち上げた。

「やだ!!離して!触るな!!離せっ…!!」

女の細い足が蹴ったところでびくともしない。
あっという間に持ち上げられた足の間に男が身を乗り出した。
腕は押さえつけられたまま。
バタつかせた足は宙を切り、車に打ち付けられて鈍い痛みが走る。
掴まれた腕は振り解けない。
怖い、怖い、気持ち悪い、怖い。
目の前に迫った男の、ズボンのチャックが下ろされていく。
チャックの隙間からグレーの下着が覗いて、低い笑い声と、知らない男の匂い、布越しに感じる体温、気持ち悪い、振り解けない腕、怖い、

「やめろ!!!!」

恐怖でパニックになった心が勝手に声を出していた。その時、腕を握っていた男の腕が緩んだ。
ばっと体を離すも目の前の男の胸に勢い良くぶつかる。
苛立った男に髪の毛を鷲掴みにされた。

「ぅっ、……」

「おい!」

「なんだよ!」

「やめろ、手ェ離せ、帰ってくる。」

頭上で聞こえる会話が自分の荒い息と共に聞こえた。
助かった、という気持ちとまだ何も解決してない、という気持ちが入り混じって、悔しさやら安心感やらで視界が滲む。
ドアが開いて、男2人がビニール袋を抱えて乗り込んで来た。
両隣の男は何事もなかったかのようにまたスマホをいじっている。

「お前らの分も買ってきたぞ」

「ありがと」

私の膝に、菓子パンが投げられた。
車にエンジンをかける音が響く。
発進して揺れる車内で、膝から滑り落ちそうなパンに手を伸ばした時、自分の手が震えているのに気がついた。
だんだんと口の中で血の味が広がっていく。
先程男に頭突きをした時に切ったのだろうか、口に手を当てれば、唇の端が切れて血が出ていた。



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