まばたきすら忘れた


君を見た瞬間、時間が止まったような感覚に陥った。
それこそまばたきすら忘れて君に魅入った。
どうして君だったんだろう?君の、どこにこんなに胸焦がれるのだろう??
君が僕に笑いかけてくれるだけでこんなに苦しくなるの、ねえ、知らないでしょう?ねえ君も僕を見て苦しくなってくれてるの??ねえ?ねえねえねえ。
「りく、はっきりしてよ。もう好きじゃないなら、いいよ、無理に付き合ってくれなくて。」
なまえちゃんの口から、予想外の言葉が出てきた。予想外なんてものじゃない、ガツーン!とこめかみを殴られたような、僕にとってそれくらいあり得ない言葉だった。
僕が?
僕がなまえちゃんのことを好きじゃない?
なんで、どこをどうとったらそうなるのさ、こんなにも好きで苦しくなって壊さないように優しく丁寧に好きって気持ちを程よく抑えて程よくってなんだなんで僕好きって気持ち抑えてるのあれ僕おかしいんじゃないかなだってこんなにも好きなのに嫌いだってあり得ないあり得ないあり得ない。
「好き、だよ。すごく」
「ほんとに?」
「本当だよ!なまえちゃんのこと好き」
「だって、りく、全然言ってくれなかったから…そういうの」
でも、今は嬉しい、そう言ってはにかむなまえちゃんは本当に可愛くて、また胸が苦しくなって好きって気持ちを抑えなくていいからなまえちゃんをぎゅーっと抱き締めた。
でも、足りない。もっと、もっと好きなんだけど。
痛いよと言って、なまえちゃんがまた笑うから、僕は僕より少し小さめの体のことがよくわからなくなった。なんだかそのことを前から知ってる気がした。そうか、だから僕は好きって気持ちを抑えてたのか。
でももう抑えなくていいんだよね?ねえ?

「りく、こんなの、違うよ…こんな愛し方をして欲しかったわけじゃ」
「わがままだなあなまえちゃんは。」
するり、冷たいりくの手が頬を撫でた。ぞくりと肌が粟立ち、いつからか習慣になった吐き気が喉の奥からせり上がる。
あの日からりくは変わってしまった。りくの異変に気付くのに時間はかからなかった。
りくは私が他の人と話すのを許さなかったし、そのうち目を合わせることも、考える内容も制限して来た。
あっという間に私の生活がりくで溢れかえった。
「なまえちゃん」
自分でもわかるほど、びくりと体が震える。返事をしたくてもできなかった。
頬を撫でたりくの手が、静かに私の手首をとった。
「なんで、なまえちゃんは僕が君を好きなのと同じくらい僕を好きになってくれないの?」
ギリギリと締め付けられる手首。
「…や」
恐怖で張り付いた喉から、小さく情けない悲鳴が漏れる。
「おかしいよね、僕がじゃないよ、なまえちゃんがだよ。だって好きって言って欲しいって言ってたのに。」
だから、好きって言ってるのに。
手首を掴んだまま、もう片方の手で私の髪の毛を掴んで押し倒した。りくが覆いかぶさってくる。震えた手でまた私の頬を撫でた。
にこ、と震える口元を動かすその仕草は、何かに酷く怯えているようだった。
「好きなんだよ。好き。なまえちゃんが好き。なまえちゃんは僕のこと好きなの?ねえ??
好きなのに幸せじゃないんだ、好きになるほど苦しいんだ、これって僕となまえちゃんの好きが釣り合ってないからなの?なまえちゃんは僕のこと独り占めしたいって思わないの?独り占めできないならいらないって思わないの??」
私を見下ろすりくの瞳は、私を見ているようで見ていない気がした。
首筋をさらり、とりくの指が滑った。
「僕は、なまえちゃんを独り占めできないなら」
りくは小さく笑った。
悲しく、切なく、どうしようもなく大切なものを愛でるような、全てのしがらみから解放されたような、そんな哀しくも晴々とした笑顔だった。その笑顔は酷く私を惹きつけた。
繋がったままの目と目。
りくの唇が言葉を紡ぐ。
「殺したっていいと思ってるよ」



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