恋の終わり方


*成人済設定

やってしまった。あぁやってしまった。。
思い出すのは昨晩の痴態の数々である。そりゃもう身体は大人だしこんなことが初めてというわけでもない。ただ相手が悪かった。非常に悪かった。ちょっといいな、と思ってたなんてものではなく、タイプすぎる容姿に中身など全く知らぬまま、遠くから数年間淡すぎる恋心を抱き続けた相手だった。
ああ、やってしまった。。
そう、文字通りやってしまったのである。
彼氏と別れてから数ヶ月、恋疲れの反動か、磨きに磨き続けた我が身を放置し続けていた。彼氏がいるという安全地帯から抜け出し、男と二人で飲むということ。その可能性なんてすっぽりと頭から抜けていた。平和ボケしてすっかり干物と化した私は、そんな大切な相手と二人きりだというのに、全く、そう全くもってクソダサい下着に荒れ放題の肌で挑んだのである。
思えば彼は「かわいい」が口癖だったように思う。尖った顔の割に少し控えめな声で、一晩中囁き続けられ、泥酔した彼の言葉にもっと泥酔した私は彼を喜ばそうと喘ぎまくった。
考えれば、上下違う毛羽立った下着に酒臭い息を吐き散らす女なんてかわいいのかの字もあるわけがない。加えて私の下のお口なんてそりゃもう生い茂ってて、スクラブもクリームもつけてない肌は過去最高に触り心地が悪かった。ああ死ね過去の自分。

なんて、なんて、言っているけれど。

感じたのはこの言いようのない悔しさだけではなかった。暗い部屋で、上半身裸の彼が馬乗りになり、私の腕を押さえつけた時、言いようのない虚しさが私の胸を締め付けた。あの感覚がまだふっと蘇ってくるのだ。
「こんな簡単に身体を許してもいいと、あなたにとってそう思えてしまう女だったのね、私は。…好きだったのに」
言えたらどんなによかったか。でもその言葉が、彼の高揚を一気に冷ますことを知ってたし、今後彼と疎遠になるのも嫌だった。だから私は飲み込んだ。苦い味がした。ただ、「やめて」と拒否することしかできなかった。ここだけは、酔っ払っている割にはよくできた判断だと思う。
そこからはもう酔えや騒げやのお祭りである。虚しさなんて行為の最中に感じなくなったいった。「キスマーク跡つけない方がいい?」なんて聞くから、「つけて」と言った。酔いに任せて私の性癖もぶちまけた。
うわごとのように口から出た「好き」を彼はどう受け取ったのだろう。
終わった後にぴとりと隣に寝て頭を撫でてくれたけど、なんだか余計に好きになってしまうばかりで、苦しくて悲しくてむなしくて悔しくて、やっぱり悲しくて、どうしようもなかった。

そんな数々の痴態醜態と、いとも簡単に身体を重ねてしまったことから、もう私と彼との未来なんてどうしたってないのである。
どこにも、なんにも、ない。
こんなにも好きだったのかと思い知らされた代償に、彼との未来は消え失せた。
今となっては彼が私にくれたものなんて、愛でも快感でもなく、数日後には消えてしまうキスマーク、それだけだった。このキスマークが消えるまでに何か起きるだろうか。それは期待であり怯えであり執着であり、祈りであった。
首の左側に細長いの2つと丸いの1つ、右肩にもう1つ。
鏡の中の私が、指でなぞる。
ここに彼の唇があったのだと。



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