人気者の彼女

コスプレイヤーな夢主ちゃんと恋人の安室透



ーーー

「サンドウィッチ、作りすぎちゃった…。歩美ちゃん達の分は余裕であるし、安室さんと梓さん食べるかな…」 蘭のその言葉が発端である。 「ぜひ!」という梓の嬉しそうな返信を受け、コナンは小さな弁当箱と共に準備中の喫茶ポアロのドアを潜った。

ーーー

「彼女へのファンレターは、まず僕が検閲するんです」
「安室さんが?」

へえ、とコナンはレターセットや可愛らしい小箱の山を眺めて頬杖を付いた。どれも宛名には蘇芳 時雨の文字が並び、それは正に 難しい顔で黙々と仕分けを行う彼…安室透の恋人であり、ここ喫茶ポアロの常連である。

「正式に事務所に入って活動を始めたらこの通り。 反応が凄くて」
「まあ、元々ネットで活動してた頃も反響は凄かったしね。 ボクの家にも写真集あるし」
「…それは誰の趣味で?」
「ぼ、ボクじゃなくて小五郎のおじさんだよ…」
「へえ」
「…顔が不穏だけど?」
「男心も色々と複雑なんです」
「ああ、そう…」

人気者の安室さんが言う?と少年は心の中でぼやく。安室がポアロに来てから、彼目当てでやってくる若年層の来客が増えたという事は言うまでもない。
にしても。とコナンはグラスを傾けた。ファンレターの山と腕時計を交互に確認して安室は目を細める。

「んー…あと数十分で時雨さんがポアロに来る予定なんですよ。さっさと仕分けを済ませなくちゃ」
「恋人だからって過干渉過ぎない? 大丈夫?嫌われてない?」
「失礼ですねえ、探偵としても恋人としても頼られていると解釈してくださいよ」

ダンボールから次々と時雨への贈り物を手に取り、暫く眺めて横にある籠と箱に仕分けしながら安室は眉を八の字に下げる。

「以前熱烈なファンから少々問題のあるファンレターが届きまして…。それ以降僕が事前にチェックしてから時雨さんに渡しているんですよ」
「…時雨さんの事務所の人に頼めばいいんじゃない?」
「嫌ですよ、事務所に任せたらこういうファンレター弾けないじゃないですか」

ひらりと手紙の山から薄灰色の便箋を籠へ移すと、ひょいとコナンが拾い上げる。 見てもいい?と目を輝かせる少年に、安室はどうぞと微笑んだ。

「いいですよ。どうせ捨てるので」
「捨てるって…いいのかよ、勝手にそんな事して」
「まさか。 時雨さんには内緒ですよ」

コイツ…、とコナンは大きなため息を零す。 気を取り直して、いかにも気合いの入った箔押しの便箋に目をやると、達筆な日本語が用紙いっぱいに連なっているではないか。

「えーと? …愛しの時雨様、今回の写真集も素晴らしくて毎日何十回とページを眺めています…そして最近は、こんな愛らしい女性とお付き合いできたらなんて幸せな事だろうと考えるようになり…?…これが僕のアドレス…携帯番号………」

そこまで読んで、コナンは便箋を籠へ放った。

「成程ねえ」
「時雨さんはかなりのお人好しなので、放っておくと律儀に連絡しかねないんです」

まあそんな所も可愛らしいんですけどね。と付け加えて、安室はまた別の封筒を籠へ抛る。何気なく目をやれば、封筒の中からキラリと光るモノが飛び出したのでコナンはギョッと目を凝らした。

「指輪!? す、捨てちゃうの!?」
「流石に高価な物なので捨てはしませんけど…時雨さんなら『お礼しなきゃ』と焦って連絡を取りかねないので、僕が預かります」
「高価って…」
「恐らく50万はするかと」
「うわっ」

蘇芳時雨にはいわゆる『ガチ恋』のファンが多いことは周知である。 それは彼女が親しみやすく、その声や言葉が身近に感じる程暖かいからだろうか。 故に気合いの入った贈り物をされる事も少なく無く、その度に安室は「彼女の人気」に祝福する気持ちと嫉妬する気持ちでいっぱいになっていた。

「時雨さんの可愛らしさが世界に拡散されてしまう事が、時々とても不安になりますよ…。まあそれが彼女の夢なので応援しますけど」
「拗らせてんなー…」
「ええ、まあ」

もうほとんど仕分けを終えて少なくなった籠から、最後のファンレターを開封する。『小学3年生 えまより』と書かれた可愛らしいピンクの封筒から便箋を取り出して内容を確認すると、安室は綺麗な箱に優しく放った。

「彼女の夢が、他のみんなの夢にも繋がるなんて素敵なことですから」
「うん、凄いことだよね」
「ええ、とても」

褐色の肌にブロンドの髪が揺れる。こんな笑顔、安室ファンが見たら卒倒するんだろうなあ、とコナンは笑った。
仕分け終えたファンレターの入った箱を丁寧に棚のカゴに仕舞うと、安室は腕時計を一瞥した後ポアロと印字されたドアをジっと見つめる…と、数秒後。
カランコロンとドアベルが控えめに鳴り、ひょこりとダークブロンドの頭が覗いた。

「時雨さん!」
「こんにちは〜! あ、コナン君もいる!久しぶりだね〜」
「久しぶり!時雨お姉ちゃん」
「あれ?梓さんは?」
「買い出しに出かけてます。もうすぐ帰ってくると思いますよ」

チャコールのニットに黒のタイトスカートを合わせたシンプルなスタイル。どちらかと言うと大人っぽい服装に、子供のような愛らしい笑顔がキラキラと光る。

「コナン君、さっきの話は全部内緒…ですよ?」
「うん、約束するよ…」

ぱたぱたと尻尾でも振るように時雨の元へ駆けていく安室の背中を見つめて、『流石に言えねーよ…』とコナンは心の中で呟いた。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -