キラキラ回るミラーボルの眩しい青色の部屋。ジュスティーヌとカロリーヌから話を聞き終えると、各自自由行動らしく解散し、私は現実と何ら変わりのない自室に案内された。 有難いことに愛用しているスピーカーやゲーム、漫画や小説もしっかり揃えられている。…けど、まあこの夢から覚めたらここでの記憶も消えてしまう仕様らしく、机に積み上げられた《積読消化》の希望は綺麗さっぱり消え失せた。
「んー…」
ぼふりとベッドに横になり天井を見つめる。 どう見ても現実の部屋なのに、これが夢の中だなんて嘘みたい。杏ちゃんはダンスの練習するって言ってたなあ…とか、春は真と振り付けについて相談するって言ってたなあとか色々思い出した辺りで、《コンコン》とノック音が聞こえた。
「おーい!夢乃〜っ!」
「あっ双葉ちゃん?」
ノーカウントで扉を開けると、両手に抱えきれないほどのゲームソフトを持った双葉ちゃんが立っているではないか。 思うや否や、「ああああ!あったぞ〜〜〜っ!」と嬉しそうな声を上げてテレビの前に座り込んでしまった。
「な!な!やっていいか!?これっ!」
キラキラした目で彼女が掲げるのは昔流行ったゲームソフトのパッケージ。 数少ない私のお気に入りで、現実世界で初めて私の部屋に来た双葉ちゃんも喜んでたなあと懐かしむ。その人気とは正反対に流通したのは僅か数百本らしい。
「いいよ、何なら無期限で部屋に持って行ってもいいよ」
「ぬっ!本当か!?神様女神様…心が広すぎるぞ夢乃は…」
「相変わらず大袈裟だなあ…」
深々と足元に座り込んで頭を下げる双葉ちゃんを無理やり立たせて、顔に掛かってしまった橙色の髪の毛を耳にかけてあげた。
「双葉ちゃんは踊りに行かないの?」
「おー!踊るよりまずやる事が山積みだからなっ!夢乃は…もしかしてこれから練習行くところだった?」
「うーん…悩んでた。いざこういう空間に放り出されると何していいかわからなくなっちゃうね」
「むー。まあ迷ったらウチのリーダーに頼るのが一番だと思うぞ!ここに来る時に広場へ向かうのが見えたから…もしかしたら踊りに行ったのかもなー」
「そうだよね、ありがとう。ちょっと話してこようかな」
タイミングよければリーダーのダンスが見れるぞ!と悪戯な笑みを浮かべる双葉ちゃんに思わず笑顔になってしまう。この間の仕返しにこっそり覗いて乱入してやろうかと何とも楽しそうな事が頭の中を駆け巡った。彼はどんなダンスをするのだろうか、普段見ることなんてないから無駄にドキドキしてしまう。
「留守番は任せろーっ!」
「よろしくね、双葉ちゃん」
コントローラー片手にひらひら手を振る双葉ちゃんに手を振りかえして、私はドアノブを回した。
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「夢乃!───って、なんだ双葉か。すまない、部屋を間違えたようだ」
「安心しろおいなり。ここは夢乃の部屋であっているぞ。そして異性の部屋を尋ねる時はノックをするべし!」
「ああ、そうか。…して、その家主はどこにいるんだ?」
「蓮のところに向かってった」
「…蓮だと」
「おいなりは見事に顔に出るよなー」
「素直さは俺の長所だ」
「素直すぎる」
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