「四川の誕生日?」

「四川の誕生日?」


とある日の休憩室にて。
向かい側の椅子に座る笹山は「ええ、そうなんですよ」と笑顔で頷いた。


「ですのでよかったら阿奈におめでとうとでも言ってやってください」

「別にいいけど……お前らちゃんと仲良かったんだな」

「そこですか」


いやそこだろう。
一応同高だとは聞いているけど俺の見ている限りあまり仲良くないというか、まああの誰にでも謙っていて優しい笹山が毒を吐くというのも珍しい光景だし。それを考えたらやっぱり仲がいいということか。謎だ。

考え込んでいると、笹山は楽しそうに頬を緩ませた。


「まあそうですね、俺、男の友達ってあんまいないんで」


それはあれか?
女の友達はいましたけど的なあれか?

……確かにまあ、誰にでもどこか他人行儀な笹山が同性と砕けて話している姿は想像できない。
でも、要するにそれって。


「じゃあ、俺は?…その、ちげーの?」

「…………」

「なっ、なんだよその沈黙は…」


そう考えると、自分に対する笹山は距離を取って接しているのではないかと思わずにはいられなくて、段々寂しくなってくる。
そして、なにも答えない笹山に弱気になりかけたときだ。


「………友達でいいんですか?」


下手したら聞き逃してしまいそうな程の小さな声に、つい俺は「え?」と聞き返す。
真っ直ぐにこちらを見据えるその目に、一瞬緊張し、息が詰まりそうになったとき。

にこりと、笹山の表情に笑みが蘇る。


「勿論、原田さんは特別な方ですよ」


あくまでいつもと変わらない調子で、当たり障りのないはずの吐出されたその言葉はやけに耳に残った。
どういう意味だ、と聞き返そうとしたとき、笹山が席を立つ。

なにか、まずいことでもしたのだろうか。
このタイミングで席を離れようとする笹山に、慌てて俺は「笹山」と呼び止める。
その瞬間、「それと」と笹山がこちらを振り返ったのは同時だった。


「阿奈の好物は甘いものです。ドキつい生クリームとかびっしり詰まったあんことか大好きですよ」

「そうなのか?…わかった、用意しとく!」

「ええ、頑張ってください」


忘れない内にメモしとこう。
そう携帯を取り出した俺だが、あれ?確か四川って甘いの嫌いなんじゃなかったっけ?
疑問に思った時にはもう笹山の姿はなくて、結局、四川の友人である笹山のアドバイスを元に適当な菓子屋で買った濃厚生クリームのシュークリームin抹茶小豆詰めを四川にプレゼントしたらめっちゃキレられた。しかも誕生日じゃなかった。よく聞いたら笹山とは喧嘩していたらしい。
笹山の奴め、俺を嫌がらせアイテムとして使うとは…笹山の奴め。

結論、笹山と四川は仲悪い。


mokuji
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