笹山と付き合ってるけど寝取られてみる

店内通路。



「〜♪〜♪」


トイレ掃除を終え、ついでに店内の整理もして、そろそろ腹が減ってきたので笹山を誘って昼食取ろうかなーなんて考えていたとき。
不意にぽんと肩を叩かれる。
もしかして、と目を輝かせながら「笹山?」と背後を振り返った時。


「残念、俺俺」

「き…紀平さん、どうしたんですか?」


少し驚いて、俺は背後に立っていた紀平さんを見上げた。
人よさそうな笑みを浮かべる紀平さんだけど、さっきの笹山とのことがあるからだろうか。あわてて距離を置こうとするが、背に壁が当たる。
なんか、追い詰められてるんですが。


「かなたん、今から休憩?」

「え、まあ、はい……そーですけど」

「丁度いいや。じゃ、せっかくだしどっか食べに行こうよ」


いきなりの誘いに、俺は「え」と目を丸くする。
紀平さんに誘われるのは、初めてだ。
普通なら喜ぶべきなのだろうか、どうしても笹山の顔が浮かんでしまう。


「すみません、俺、やめときます」

「なんで?」

「なんでって、別に、あのなんか今日はこう、家庭的な味が食べたいなーって」

「なら、かなたんが好きなところでいいよ。家庭的な味語ってる店ならいくらでもあるっしょ」

「そ……そーですねー」


なんでだ、なんか、こう、ジリジリと迫ってくる紀平さんに俺は押し潰されそうになってんだ。
目が笑ってないし、なんか、いつもと雰囲気が違う紀平さんが怖い。


「すみません、俺そろそろ…」

「……俺の相手をするなって」


口を開いた紀平さんに、「え?」と目を丸くしたとき。
伸びてきた手に思いっきり腕を掴まれ、そのまま乱暴に壁に押し付けられる。
音を立て背中が壁にぶつかり、鈍い痛みが走った。


「俺の相手をするなって、透から言われてんの?」


細められた目が俺を見据える。
なんでここで笹山の名前が出てくるのかわからなくて、理解したくなくて、「何言ってるんですか」と動揺を悟られないよう必死に笑みを作りながら紀平さんの腕を退かそうとするが、腕を掴む紀平さんの手には力が増すばかりで、集中した痛みに顔面の筋肉は歪む。


「かなたんってばホント演技下手だよねー?可愛い。ホント可愛い。憎たらしいくらい」


微笑む紀平さんの手が、腰に回される。
抱き寄せるようにエプロンの紐を解かれそうになり、慌てて俺は紀平さんの胸を強く押した。



「っ、紀平さん…ッ」

「どーしたの?」

「やめてください、ホント」


服の裾を持ち上げられ、直に背筋を撫で上げられればぞくりと背筋が震える。
「なんで?」と、鼻先を寄せてきた紀平さん。
キスしそうなくらい近い距離に耐え切れず、俺は顔を逸らした。


「なんでって、だって、こんな」

「いつもヤッてたじゃん」


セックス、と唇を動かした紀平さんに全身から血の気が引いていく。
笹山と付き合うことになって、ずっと蓋を閉めるように見ないようにしてきた触れられたくないそこに直接踏み込んできた紀平さんの言葉は胸に深く突き刺さった。
確かに、笹山と付き合う前まではずるずると流されるように何度も紀平さんに抱き潰されたことがあった。それはどうしようも無い事実だし、今更どうこうすればいいという問題でもない。
だけど、笹山と一緒になってから、俺は、流されないように断ってきた。
だから、今回もそうすればいいはずだとわかっているのだけれど、


「最近ヤッてなかったからさ、たまにはいいじゃん。ね?」

「やっ、やめてください……っ」

「どうして?そろそろかなたんもヤリたくて疼き出した頃でしょ?」

「違いますっ」


ハッキリと、拒絶する。
そうすれば、わかってくれる。
そう思っていた俺だが、どうならそれは紀平さんには通用しないようで。

細められた瞳には光がない。
それどころか、どこか薄暗く澱んでいる紀平さんの目に、俺は、凍り付いた。


「毎日透としてるから?」


形だけの笑みを浮かべた紀平さんの唇が動く。
下品で、遠慮ない言葉だが、図星を突かれた俺は取り繕う暇もなく、多分、相当酷い顔になっていたのだろう。
押し黙っていると、紀平さんは楽しそうに喉を鳴らして笑う。


「あれ、やっぱり二人が付き合ってんのってマジだったんだ。酷いな〜、教えてくれたらよかったのにさあ?

そしたら、透の目の前で犯してやるのに」


腕を掴む手が離れたと思った瞬間、エプロンの裾ごとTシャツをたくし上げられる。
誰が来るかもわからない通路で、明かりの下、無理矢理上半身を曝された俺は慌てて紀平さんの手を振り払おうとするけど、力の差は大きくて。
首筋に顔を埋めてくる紀平さんに首筋を舐められ、凍り付いた。
肌寒い胸元に伸ばされた手に平らな胸を揉み下され、笹山以外の手の感触に一瞬パニックに陥りそうになった。


「や、やだ、紀平さん…っ」

「それは俺の台詞だよ、かなたん。一人のものになるなんて狡いじゃん」


ぎゅっと乳首を摘まれ、そのまま力いっぱい引っ張られれば鋭い痛みともに胸の奥がざわつき始める。
身動ぎ、必死になって首筋に埋められた紀平さんの頭を剥がそうとするが、筋をなぞるように舐められれば力が抜けそうになって。


「っぁ、や…ッ」

「かなたんはさ、皆のものだろ?」

「違いますっ、俺…ッ、俺、もう、笹山以外とこういうことはしませんから…っ!だから…っ、んんぅっ!」


言い終わる前に引っ張られ、赤く充血した乳首に爪を立てられ、その痛みに頭が真っ白になる。
腰がずぐずぐと熱を持ち始め、今まで散散嬲られてきた胸の突起は紀平さんの指に反応するみたいにツンと硬くなってくる。


「……ふーん、なるほどなぁ。流石透、よく躾けてんなぁ」

「っや、ぁ…っ、やだ、紀平さん…っ」


主張するそこを指でコリコリと転がされ、意思とは反して蕩けそうな心地よさに腰が抜けそうになる体。
嫌なのに、こんなことしちゃいけないって決めてたのに、忘れかけていた沸騰するほどの熱に理性が微睡む。
噛み合わない体と心のジレンマにぐちゃぐちゃになって泣きそうになったとき、優しく前髪を撫で付けられた。
陰る視界の中、一瞬いつも撫でてくれる笹山の手と錯覚しかけたが目の前にいる人は笹山ではない。


「もう二度と、そんなこと俺に言えないようにしてあげなくちゃ」


額に寄せられる唇。
優しいキスは笹山のものではないと嫌でもわかっているはずなのに、なんでだろうか。
なんで、俺は笑ってるんだ。


END

mokuji
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