四川の怪我

「お前」

「あ?」

「どうしたんだよ、それ…」


店内。
鉢合わせになった四川のあからさまな異変に気付いた俺は目を丸くした。
無愛想な表情を貼りつけた顔面。
青黒く変色した目の縁にぎょっとすれば、四川は思い出したように「あー」と呟いた。


「……別に。お前には関係ねえだろ」

「確かに、そうだけど」


そうだけど、確かにムカツクやつだがどうみても喧嘩しましたって顔があって心配するなという方が無理な話だ。
掛ける言葉もなく、代わりに四川をじっと見上げれば、ばつが悪そうに眉根を寄せた四川。


「なんだよ……っ、つ」


言い掛けて、傷が痛んだのだろう。
顔を顰め、口元を抑える四川に慌てて駆け寄る。


「いっ、痛いのか?大丈夫か?」

「……」


口元をおさえたまま反応がない。


「しっ、四川……?」


益々心配になって、そう恐る恐る肩に触れようとした時。


「っあー、やべえ、いてぇ。血ぃ出てきてる」

「うそ、おい、大丈夫か?ちょっ、ちょっと待って、なんか消毒とか…」


いや、ここはハンカチとか絆創膏か?
大袈裟に痛がりだす四川に内心そこまで痛むのかと狼狽えながら、なにかないかとエプロンのポケットに手を突っ込む。
するとたまたまポケットに突っ込んであった絆創膏を見つけ、それを渡そうと四川を覗き込んだ。
瞬間、確かに視線がばちりと音を立てぶつかって。
そして、次の瞬間、目の前にあった四川の顔がすぐそばまで寄ってきて、唇に暖かな感触を感じたときはすぐに四川の顔は離れていた。


「嘘に決まってんだろ、バーカ」

「………………」

「お前、どんだけ心配性なんだよ」


くすくすと意地の悪い笑みを浮かべる四川に、そこでようやく俺は自分が誂われいたことに気付く。
すると、硬くなった全身の血が一気に熱く滾り、顔面に熱が集まるの鮮明に感じた。

こいつ、騙しやがったのか。


「っ、て、てめぇっ!人が真面目に心配してんのに…っ」

「うるせえよ、お前が好きでしたんだろ」

「な…悪かったな、勝手に心配して!もうお前なんか心配しねーよ、ばーか!ばーーーか!」

「あーそうかよ、どうせするくせに出来もしねえこと言うなよな」

「しねえってば!」


ホント、なんなんだこいつ、可愛くねえ。
ムキになればなるほどやつは痛々しい横顔で楽しそうに笑うばかりで、そんな俺の反応を喜んでいる気配すらあった。
そんなんだからボコられるんだよと言い返したくなる反面、嬉しそうに笑う四川に安堵する自分が可笑しくて、余計ムカムカしてきた。くそう。
これも全部怪我した四川のせいだ。怪我するような真似してんじゃねえよ。しかもなんで俺のほうがハラハラしてんだよ。
これじゃ本当に、馬鹿みたいじゃないか。







「あれ?透どうしたの、その頬」

「いえ、ちょっと揉めただけですよ。
…………本当、不器用なくせに独占欲だけはあるやつって嫌ですよね」




mokuji
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