【フリリク】カナちゃんと笹山君B

やべえ、転ぶ。
そう覚悟し、ぎゅっと硬く瞑ったとき、伸びてきた笹山の手に腕を引っ張られる。
大きく傾く体。
「うっ」と小さなうめき声が聞こえ、慌てて目を開けば下には笹山がいて。


「あいたたた…」


どうやら、バランスを崩した反動で笹山まで巻き込んでしまったようだ。
俺を庇う代わりに背中を打ったのか、苦笑を浮かべながらも起き上がる笹山の腹の上。
跨るように乗っていた俺は慌てて笹山の顔を覗き込む。


「ご、ごめん…痛かっただろ?大丈夫か?」

「俺は、大丈夫ですけど…あの」


ゆっくりと笹山の視線が下り、下腹部に向けられる。
口籠る笹山に疑問を覚え、「あ?」とつられて視線を下げれば大きく捲れ上がったスカートと剥き出しになった自分の腿が映り込んだ。
全身から血の気が引き、声にならない悲鳴が漏れる。


「ごっ、ぁ、うそ、ごっごめん!そういうつもりじゃっ」


いや、どういうつもりだよ、と自分で突っ込みを入れたくなるくらい動揺した俺は取り敢えず笹山から飛び降りれば、苦笑を浮かべた笹山はそのままゆっくりと立ち上がった。


「そんなに慌てなくても…別に、パンツくらい自分の見てるんで大丈夫ですよ」

「そ、そうだけど…。つか、本当に大丈夫か?重かっただろ?怪我とか…」

「大丈夫です。心配して下さってありがとうございます」


狼狽える俺に、笹山は嬉しそうに微笑んだ。
そして、なにか思いついたようだ。
ふと、表情を引き締めた笹山は「あの」と口を開く。


「着替え、どこにあるんですか?」

「多分、どっかに…」

「多分?」

「翔太がどっか隠したみたいで…」

「……本当、やってくれますね。あの人」


ごにょごにょと口籠る俺に、笹山は小さく息を吐く。
そして、鬱陶しそうに長い前髪を掻き上げた。


「取り敢えず、俺、他に着れそうなのないか探してみてくるので。お願いなのでここから出歩かないで下さいね」


心配しそうに念を押してくる笹山。
そこまでしてくれることに感謝の念を抱く反面、その言葉にぎょっとせずにはいられない。


「こっ、こんなんで出歩けるわけないだろ…っ」


流石の俺でもそんなアホな真似はしない。
コスプレ強化週間ならともかく、他の店員も私服の今一人こんな姿で働けるわけがない。


「わかってますよ、わかってますけど…一応ね」


赤くなりながらも必死に否定する俺に、笹山は苦笑を浮かべる。
そして、そのまま休憩室から出ていこうとするその背中に、咄嗟に俺は「あ、おい」と呼び止めた。



「どうしました?」

「あの……ごめんな、色々迷惑掛けて」


元はと言えばあのヲタク眼鏡野郎がしなければならないことをわざわざ自分から名乗り出てくれる笹山に申し訳なさでいっぱいになる。
どういう顔をしたらいいのかわからず、項垂れる俺に笹山は「気にしないで下さい」とはにかみ、そのまま休憩室を後にした。

mokuji
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