【フリリク】カナちゃんと笹山君A

「原田さん、どうしたんですか、その服……」


呆然とする笹山にバクバクと心臓は跳ね上がり、緊張と動揺で嫌な汗が滲む。
このままでは女装して鏡を眺め一人興奮している変態女装野郎というレッテルを貼られてしまう。あながち間違いではないだけに、それだけは避けたい。


「ちっ、違…!あの、その、これは…っ翔太が……っ」

「中谷さん?」


元はといえばあいつのせいだ。
こくこくと頷けば、少しだけ笹山の表情が硬くなったような気がしないでもしない。
笹山は小さく息をついた。


「まあ、確かにあの人が好きそうな服ですもんね」


そして、狼狽え、硬直する俺の目の前までやってきた笹山は品定めでもするかのように俺の全身に目を向ける。


「あ……っ」


見られてる。
それだけでも相手がなにを考えてるのかわからず不安と恐怖と羞恥で頭ん中がごちゃごちゃになり、顔から火を噴きそうだったのに、やつは有ろうことか俺のスカートに手を伸ばす。

そして、


「でも、スカートの丈、短すぎますよ。パンツ見えてますし」


言いながら、当たり前のように裾を持ち上げてくる笹山に俺は思考停止する。
剥き出しになった下着に、太腿。
別に、パンツ見られたくらいどうってことないはずなのに、何故だろうか。
女の格好をしているせいか、見られてはいけない場所を見られたみたいな錯覚に襲われる。
そして、女装に毒されつつある自分の思考に二重の意味で恥ずかしさでのた打ち回りそうになった。
しかし、現実は恐ろしいほど体が動かなくて。


「あっ、す……すみません。つい」

「…っ」

「原田さん?」


笹山も無礼だと思ったようだ。
俯き、押し黙る俺に、申し訳なさそうな顔をして笹山は俺の顔を覗き込む。
目があって、頭の中でなにかが弾けるように俺は笹山から飛び退いた。


「きっ、着替えてくる!」


そして、そう震える声で張り上げた俺はそのまま脱兎の如く笹山から逃げようとして、慌てた笹山に「原田さんっ」と呼び止められる。


「走ったら危ないですよ!」


その声に驚いて、思わず振り返ろうとした時。
ずるりと、足が滑る。


「え?」


暗転する視界。
ぐらりと崩れる体。
なにもないところで転ぶってどいういうことなの。

mokuji
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