【フリリク】カナちゃんと笹山君@

あまりにも眠た過ぎたので休憩室のソファーでちょっとだけ仮眠を取っていたのだが、どうやら寝過ぎていたようだ。


「カナちゃん、すごい似合うね!やっぱり僕の見込み通りだ!」

「なにが見込み通りだ!ふざけんじゃねえ!人が寝てるときに着替えさせるのやめろっつってんだろ!」

「だってカナちゃん普通にお願いしても着てくれないじゃん」

「当たり前だ!誰が、こんな…こんな…っ!」


目を覚ませば目の前にはニコニコと上機嫌な翔太。
怒りと呆れでわなわなと震えながら、俺は自分の服装に目を向けた。
パンツ見えるんじゃねえのってくらい短いプリーツのスカートに、だぼっとしたニットのカーディガン。白いワイシャツの襟には、ご丁寧に真っ赤なリボンまでつけられている。
膝上までのハイソックスにはどこのものかわからない校章までついているではないか。
嫌なくらい徹底した女子制服だった。


「いやーでもこれで安心した。これならイベントに間に合うよ」


うんうんと頷く翔太。
どうやらこれはなにかの漫画だかアニメのキャラのらしい。
サイズ合わせに俺を使うのはやめてもらいたい。
というか女装で参加するつもりなのかこいつ。


「どういうイベントだよ…くそ…っ」

「あれ?もう着替えちゃうの?」

「当たり前だ!」

「せめて鏡で見ておけば?せっかく似合ってるんだから。ほら、僕は今から用事あるから帰るけど、返すのなら明日でいいから」

「な……っ」


なにを勝手な気遣いを。
いらんわ!と脱ぎ捨ててやりたかったが、翔太に止められる。
そっと、翔太は耳元に唇を寄せた。


「知ってる?最近、女の子たちの間で女装した男の子が流行ってるんだって」

「まじで?!」

「親近感沸くんだってよ。女子高生にでも話しかけてみなよ」

「は、流行ってるのか…」


いや、そんなわけがあるか。ありえない。
頭の隅ではわかっていたが、どちらかと言えば翔太の方が世間に(とはいってもアンダーグラウンドの方だが)疎通しているのは事実で。
馬鹿にされてる、誂われていると理解しつつも、もしそれが事実ならばこれはチャンスではなかろうかと揺らぐ。


「じゃ、またあとでね」


悶々と夢を広げる俺に、くすくすと笑う翔太は軽く俺の肩を叩き、そのまま休憩室を出ていった。


「……」


一人になった休憩室内。
辺りに人がいないのを確認し、休憩室内に設置された店長が愛用している全身鏡の前に移動する。
そして、恐る恐る鏡の中をのぞき込んだ俺は固まった。

やべえ、俺いけんじゃねーの。

まあな!確かに元は悪くないしな!はは!と照れ隠しに開き直りつつ、俺は鏡の前でポーズを取ってみる。
これはやばい。そこら辺の女子高生に勝つぞこれ。
変身願望があるわけではないが、やはりコスプレというのは自分が自分ではないような錯覚を起こし、大胆にするようだ。
このあとあまりの虚しさ諸々で憤死するのは目に見えていたがやはり、楽しいものは楽しいのだからしょうがない。
こりゃ翔太もハマるわけだ。
なんだかテンションが上がって、ちょっとだけ髪もいじってみた。


「おぉ!」


女特有の狭い肩幅やらなめらかな曲線とは無縁の体付きではあるが、カーディガンのお陰で体の線は隠れているので大分カバーされてる。
これなら、まじでいけるんじゃないか。
どきどきと高鳴る鼓動。
鏡に触れ、なんとなく自分がとんでもなく悪いことをしているような背徳感にぞくぞくと背筋が震えた。

どうせなら、下着も女物の方が決まるかもしれない。
なんて血迷った思考を働かせながら、俺は乾いた唇を舐め、スカートの裾に触れた。
そのままゆっくりと裾を摘み上げようとしたときだった。

ガチャリと小さな音を立て、休憩室の扉が開く。


「っ!?」


はっと我に返った俺は慌てて鏡から離れたが、服を脱ぎ捨てるまでは間に合わなかった。
全身から血の気が引く。
慌ててスカートの裾を抑え、開いた扉に目を向ければ、そこには同様目を丸くした笹山がいて。


「……原田さん?」


笹山なら、適当に女のふりをしてたらなんとか誤魔化せるかもしれない。と思った矢先さっそくバレて憤死。

mokuji
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