メイド笹山とランデブー@

「というわけで今週はコスプレ強化週間だ!貴様ら、在庫は全て空にしろ!」


開店前の店内。
ピンク色のナース服を身に纏った店長はボードを手にビシッと指をさす。

それを合図に「うおおお!」と声を揃える店員たち。
しかしいつもと違うのが店員たちのほとんどがコスプレ衣装に身を包んでいるということで。
翻るスカートから延びる逞しい足は目の毒以外のなにものでもなかった。


* * * *



「あれ?原田さんは着ないんですか?」


薄暗いバックヤード内。
入荷した段ボールを開けていると、ふいに聞き慣れた声がした。
笹山だ。


「笹山…お前もか」

「逃げてたんですけどね、捕まってしまいました」


やけに丈の短い黒地のワンピースにレースたっぷりの白いエプロン。
ゴスロリ調のメイド服を身に纏った笹山は苦笑を浮かべる。
元々顔もいいし髪も長いし薄目で見ればなかなか女に…見えなかった。
よく見るとしっかりした肩幅はどうみても男のそれだ。


「あの、見すぎです」

「あ、わり…」

「そんなに変ですかね?」

「や、似合ってる、と思う」


困ったように笑う笹山に慌ててフォローすれば、きょとんとする笹山だったがすぐに嬉しそうに頬を綻ばせた。


「ありがとうございます。原田さんにそう言ってもらえてよかったです」


柔らかい笑顔になぜかこちらが赤くなってしまった。
女装のせいか褒められて喜ぶ笹山がいつもの笹山と違って見えてなんかもうあれだな、女の服見ただけでどきどきする俺って本当どうなの。

どうしたらいいのかわかんなくて目のやり場に困ってたら笹山はなにかを悟ったようだ。


「でも、残念です」


肩を竦め囁かれ「なにが」と聞き返せば笹山は柔らかく微笑んだ。


「原田さんのコスが見れなくて」


いきなりなにを言い出すのかと思えば本当になにを言い出すんだ。
真面目な顔をしてとんでもないこと言う笹山に思わず噴き出しそうになる。


「お前、なに言って」

「原田さん髪長いですし女装も似合うと思ったんですけどね」


「ほら、意外と腰も細いですし」といいながら然り気無く腰を掴まれ思わず俺は飛び上がった。
服の上からなでくり回してくる笹山の手を押さえ付け、なにをするんだと見上げれば至近距離で笹山と視線がぶつかる。
なにこの近さ。


「よかったら今度二人だけのときしましょうか、コスプレ。俺、仕入れのときいいの見付けたんです」

「お前は、仕事中にそんなことばっかり考えてるのか」

「ええ、そうですね」


原田さんのことばかりで頭が可笑しくなりそうです、と耳元で甘い声で囁かれれば心地のよい低音に腰が疼く。
ぽーっと顔が赤くなって、どうすればいいのかわからずそのまま固まっていたらこちらを覗き込んだ笹山に唇を重ねられた。
優しいキス。
なんという不意打ち。


「ば、なに…っ」

「いえ、すみません。つい」


ついってなんだ。
目の前のタラシメイドの胸を押し返し離そうとすれば、手首を掴まれ再度メイド笹山は顔を近付けてきた。


「っ、ささやま」

「ごめんなさい、なんか、原田さん見てると腰にきちゃって」


僅かに頬を赤くしてそんなこと言い出す笹山。
つられてやつの下半身に目を向ければレースのスカートが膨らんでいるのを見付け、俺は絶句した。
そんな俺に気恥ずかしそうに目を伏せた笹山はそのままぎゅっと俺の手を握りしめ、掠れた声で小さく呟く。


「駄目なメイドで申し訳ございません」


どうぞ、好きなだけお仕置きして下さい。原田さん。

囁かれ、唇に生暖かい吐息が吹きかかる。
益々全身の体温が上昇するのを感じた。
本当はこいつノリノリなんじゃねえのと言いたくなるくらいナチュラルな言動に一々反応してしまう俺はなんなんだろうか。
笹山の垂れた前髪に触れ「そこは、ご主人様って呼べよ」と耳にかけてやれば笹山は笑う。


「畏まりました、ご主人様」


そんなノリのいい女装メイドにきゅんとしてしまう俺も俺だ。

mokuji
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