鬼さん鬼さん、こっちを向いて3

ぴくり、と耳を澄ます。兄の部屋から聞こえる三味線の音色。
あの、曲は。三味線だとしても分かる。あの夜聞いた心地よい音色。忘れることのできなかったおと。矢張り兄と芸者は知り合いだった。それも部屋に呼んでしまうほどの。だったらば、何故、あの時知らないなんて嘘を。奪わないって約束していたのに。青の炎がぼうと灯る。握った拳に爪が食い込む。許せない。何故だ。
静かになる部屋の襖に手をかける。このまま兄の寝首を掻いてしまおうか。あやかしなんだから一回死んだくらいじゃ死なないだろう。ならば。ならば。
す、と音もなく開いた襖。眼下にはすやすやと眠りこける兄と芸者……ではなく、明らかに男の肢体。
(――は?)
正直に言えば、本気で兄の寝首を掻けると思ってはいない。今もきっと起きていると思っていたのだ。だが、どうだ?男をぎゅうぎゅうと抱きしめて熟睡しているではないか。こんなに無防備な兄は初めて見た。
(え?っていうか、この人もしかして今日会った先生か……?)
「んん……」
まずい。起きてしまう。勝手に部屋に入ったと知られるわけにはいかないのだ。脱兎のごとく自室に戻って蒲団をかぶって見ても睡魔は訪れない。まじまじと己の手を見る。まさか、あの時会ったおんなはあのおとこだったっていうのか?しかし、触れた手は明らかにおんなの柔らかさだったし、線も細かった。普通に考えて男が女の恰好をしていたとして、わからないはずがないだろう。だったら何だというのだ。双子とでもいうのか。双子だとしてこんなに音の響きが似るものなのだろうか。
そもそもいつの間に兄貴の部屋に?そしてあの兄貴との仲睦まじい様子はなんなのか。
あの先生は、一松という男はいったい何者なんだ?

――まさか、俺たちと同じ、あやかしだったり、するのだろうか。


(だったら、嬉しい、んだがなぁ……)


――悶々。




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