困惑フライデイ

「♪」
花宮さんから借りた本を読み終えた。
彼から借りたのはとあるシリーズの最新巻である。このシリーズはすべて購入しているのだが、ちょっぴりマイナーな作者のため、新刊はどこへ行っても見つけられなかった。
そのことを花宮さんに話せば丁度彼が読み終わったと言うので、その場で思わず借りてしまったのだった。最後の一冊を棚に置けないのは残念だったが、読みたい気持ちの方が高かった。思い入れのあるシリーズだから、いつか本屋で見つけたら買うつもりだ。
やはりこの作者の話はいい。するどい心理描写、背景、表情、そして読めない展開。すべてがすっと体に入ってきて一気に読めてしまう。表現の仕方が若干稚多なところがあるが、それも良い。
昼休み中に読み終わったとメールを送った。そして、先程部活前に携帯を確認したら向こうもボクが貸した本を読み終わったようで、この部活が終わってから会うということになったようだ。花宮さんはまた貸してくれるらしい。 というかなんであの人はあんなに新刊をぽんぽん買えるんですかね。実はお坊っちゃまなんですかね。むかつく。
まあ、それはともかく。花宮さんに会うのも久しぶりだし、気になる本が読めるのだ。柄にもなくテンション上がるのも仕方ないことで。

「……って、いやいやいや……」

花宮さんに会うからテンション上がるってどういうことだ。
相手はあの花宮真だぞ!木吉センパイの宿敵!ラフプレーで有名な悪童なんですってば!
……しかし、あの人はよくわからない。性格がゲスだと言われる割には待ち合わせ場所はいっつも誠凛寄りにしてくれたり、さりげなく奢ってくれたり、車道側歩いたり、そういえば何気に紳士なんですよねえ……。ボクの話ちゃんと聞いてくれるし、頭いいからか知らないけど話しやすいっていうか、ずっと話してても飽きないし、なんか話術すごいんですよね……ってよく考えたらあの人イケメンだし、頭いいし、バスケできるし実はめっちゃハイスペックじゃね?しかもちょっとツンデレ?いやゲスデレ?入ってるし。HSG(ハイスペックゲスデレ)なんて新ジャンルすぎるわ!
…って違う違う、だから絆されちゃダメなんですってばー!

「黒子?何ひとりで百面相してるんだ?」
「あ、伊月センパイ。ハイスペックゲスデレってどう思います?」
「ん?イキナリ何の話?」
「あ、いえ、花宮さんの話なんですけど」
「花宮!?黒子お前花宮になにかされたのか!?」
「あ、」

し、しまったー!つい口が滑ったー!
木吉センパイの件で、ボクら誠凛と霧崎第一の溝は深い。だから余計内密にしてきたというのに……こんなことで口を滑らせるなんて!
火神くんのこと馬鹿にできないくらい馬鹿ですね、ボク。
伊月センパイの予想外の声に練習していた体育館が一斉にシィーンとなった。そこまで大きな声じゃなかったはずなのに。なにこれ超怖い。静寂の中、一番に声を掛けたのは火神くんだった。

「黒子?アイツになんかされたのか?弱みとか握られてるのか?!」
「ち、違います!」
「じゃあ花宮と何があったんだ?」
「あ、いえ、その……えっと、ですね……」
「俺らに言えないことなのかよ……?」

ああああ火神くんそんな泣きそうな顔しないでくださいいいい!気づいたら誠凛のみなさんが泣きそうな顔してらっしゃるうううう!
いや、あの、本の貸し借りしてるだけなんですけど……、あーでもそれ言うとボクがグロテスクなものや暴力的なものも読んでいることもバレてしまう……っていやいやそれはまあいいとして、これで花宮さんの影響とかにされたら、花宮さんが誤解されたまま憎まれることになるんじゃ……、いや、ていうかそもそも霧崎第一の花宮さんと本を貸し借りする関係ってのが良くないわけで、あれ?じゃあむしろこれは言っちゃダメじゃね?でも言わないと誤解されるんじゃね?あれ、じゃあ、ボクは結局どうしたらいいんだ……?
混乱していると何を思ったか日向センパイがめっちゃいい笑顔でこう言った。

「素直に言え、な?言わないとカントク特性スポドリ飲ませるぞ?」

やっべーセンパイクラッチタイム入ってるわー。カントクのスポドリなんて逆らえる訳ないじゃないっすかー。
ええい、ままよっ!!

「えっと実はかくかくしかじかでありまして……」

「……ほーう?花宮の野郎……今度は俺の後輩にまで手をだしやがって……」
「えっ、日向センパイ話聞いてました?」
「聞いてたっつうの。あの悪童が本の貸し借りだけな訳ねえだろが」
「え?」
「絶対になんか企んでるに決まってる」
「えっ、でもボクなにもされてませんよ?」
「そうやって油断させてるんじゃないか?黒子もあいつの性格知らない訳じゃないだろ?」
「伊月センパイまで……か、火神くん…」
「黒子を騙そうなんて許せねえ、です!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいみなさんー!!」

ああもう誰もが打倒花宮って言ってるよー……。
ありがたいんですけど、花宮さんって本当にそこまで悪い人じゃないんじゃ……、あれ、まさにこれが絆されてるってことなのでは?


次→
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -