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十座くんと椋くんから告げられた、九門くんの抱える問題。プレッシャーがかかると熱を出して体調を崩してしまうこと。それでこれまで沢山つらい思いをしてきたこと。
今回の公演の内容も、それを克服してほしくて十座くんからつづるんにお願いをしに行ったこと。

話を聞いた後、夏組の皆は何かを話し合いながら談話室を出ていった。きっと九門くんのところに向かうんだろう。
私は黙ってそれを見送った後、俯きがちにソファに座る。
全然、なんにも、知らなかった。気付きもしなかったし、おかしいとも、何も思わなかった。

「……」
「なーにしょげてんだ?」
「万里くん」

脚を組んでソファに座った万里くんは、私が何に凹んでるかくらいお見通しだ。だからこそ、素直に思っていることを口に出来る。

「私、九門くんに公演楽しみにしてるねって何度も言って、きっと沢山プレッシャーかけちゃった」
「んなもん、知らなかったんだからしょうがねーだろ。それに、そんなんここのヤツら全員言ってんじゃねーの?」
「でも、私、九門くんと学校が一緒な分きっとみんなより言ったよ。九門くんの様子にだって気付けたかもしれないのに、気付けなかった。それに……みんなと違って役者じゃない立場の私が言うのは、多分、感じ方が違う」

だからきっと、私が言うのは余計プレッシャーになったと思う。それを考えたら、申し訳なくて仕方がなくなった。無神経で無責任な自分が恥ずかしい。

「役者じゃないからって、アイツが気にするとは思えねーけどな」
「そうかな」
「んなこといちいち気にするヤツだと思うか?MANKAIカンパニーの一員のみょうじなまえとしか思ってねーだろ」
「それは、」

そうかも、しれないけど。
返事をする前に、「万里いるー?」と談話室に至くんが入ってきた。

「共闘付き合っ……ってごめん、話し中だった?」
「いいや、もう終わったからへーき。もうすぐあの人達も来るだろうし」

あの人達?と首を傾げる私を励ますように、ぽん、と肩に手を置いてから万里くんが至くんと一緒に談話室を出ていく。それと入れ違いに入ってきたのは、東くん、左京くん、シトロンくんに千景くんだった。
一度こちらを振り向いた万里くんの目はどうしてか、ほらな、と言っているように見えた。

「なまえ、よかったら一緒に麻雀やらない?」

***

麻雀部で圧倒的な実力を誇る東くんと中途半端にルールをわかっている私がチームになることで、いい感じのハンデになるからと、私はしばしば東くんの隣に座って一緒に麻雀をする。「これ出す?」って聞いたり、鳴かないでいいの?って目で訴えかけたり、牌を追う目線だったり、そんな色々がハンデになっているらしい。
それを疎ましがるどころか、なぜか愉しそうに笑う東くんが、いつも足手まといのはずの私のことを自ら誘いに来るから、誘ってくれるならと私も仲間に入れてもらっている。そんな東くんが結構前から「カンパニーで一番なまえに甘い」と言われていることは知っている。
本来麻雀部はカズくんがいるのだけど、公演前だからと今日は千景くんが入るらしい。強敵の千景くんがいる時、普段私は入らないんだけど。

「ロン」
「あー!?東くんごめん!」
「やられちゃったね」

「これ?」と私が東くんに聞いて出した牌が見事千景くんのアガリ牌だったらしい。もしかして東くん、なんとなくわかってたんじゃ!?と思うけど、東くんは負けたのににこにこ笑っているだけだ。

「ごめんね東くん」
「そんなに気にしないで、なまえ。止めなかったボクが悪いから」

その口ぶり、やっぱりわかってた!?

「みょうじ、雪白の言う通り気にするだけ無駄だぞ。そもそも、ソイツはお前が勝とうが負けようが気にしてねぇからな」
「アズマ、なまえにロメロメダヨ。一緒に麻雀したいだけネ」
「一成も、いつも仲の良さを見せつけられるって嘆いてたな」
「ふふ、いいでしょう」

みんなの言うことを否定せず、嬉しそうというかどこか誇らしげな東くんに、いつも一生懸命勝とうとしている私としては、「えっ、一緒に頑張ってくれてるんじゃなかったの!?」って感じだ。そりゃあ、大体いつも東くんは私のやりたいようにやらせてくれて、時々助言をしてくれるくらいだったけど。
……あれ?私がハンデでちょっと入ってるだけのつもりだったけど、実は主体が私で東くんがアドバイザーだったのかな。

「全く勝敗を気にしてないってわけじゃないよ」
「なまえが勝ちたいって言ったら勝たせるんでしょう」
「そううまくいくかはわからないけど、勿論、その時には全力で頑張るよ」

東くんが私を見て、「そうだな……」と意味深に笑む。どうしてこの人は、こうしてしばしば無意味に色気を放つんだろう。東くんだからか。

「なまえが応援してくれたらその分だけ頑張れるかな」
「そう?」
「うん。勿論、頑張らないとって意気込む分緊張することもあるかもしれないけど、だからといって大好きな仲間からの応援が嫌になったり、迷惑だったりすることはないと思うよ」
「!」

東くんのそれが、何を示しているかなんて、悩まずともすぐにわかった。
まさか、わざわざそれを伝えたいからって、四人集まって麻雀をしたの?そう思ったら、なんだかおかしくて、嬉しくて、笑いがこみ上げてきた。
それならもしかして、この三人も協力者なのかな。そうだったら……やっぱり可笑しいな。嬉しいな。

「じゃあ、頑張って応援、しようかな」
「うん。よろしくね」
「なまえ、ワタシも応援してほしいヨ!」
「えー?じゃあ東くんの次に頑張ってね」

「殺生ネ!」って大袈裟に嘆くシトロンくんに、笑みがこぼれる。
九門くんにプレッシャーはかけたくないし、少しでも負担を軽くしたい。でも、夏組のお芝居が大好きで、楽しみで、心から応援してるって気持ちはきっと無駄じゃないし、捨てたくない。捨てなくていいんだと、ちゃんと思える。

それでも、夏組のみんなのお陰で持ち直した九門くんに会った時はかける言葉が見つからなかった。
何て言えばいいか戸惑う私に、九門くんが何も言わず、握った拳を向けてきた。それを見て私も同じように手を握って、拳と拳をこつんとあわせる。
――ああ、伝わってる。大丈夫だ。
九門くんのお日さまみたいな色の目と目をあわせて、お互いに笑顔を浮かべる。
九門くんは、きっともう、大丈夫。

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