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食事の後、臣くんとお皿洗いをしている莇くんに見惚れていたら、綴くんにもの言いたげな目を向けられた。莇くんがお皿洗ってる姿もかっこいいんだから仕方がないじゃない……!
それに、莇くんのことばっかり見ている所為か、臣くんと莇くんが少しぎくしゃくしていたのは私も感じていて、気になってたから、わだかまりがなくなったらしい二人の様子が嬉しくもあって、ついつい見ちゃう。
きっかけは、九門くんが二人に話し合うようにしてくれたからだと聞いた。そういうことが出来るのは九門くんのあの性格あってこそだろうなあって感心して、ちょっとだけ羨ましいなって思った。だからってもちろん妬んだりはしないけど。寧ろ尊敬する。
「いい弟だね」と伝えれば、「ああ」とだけ答えた十座くんは、他人からしたらわかりづらいかもしれないけれど、私達からしたらわかりやすく誇らしげで嬉しそうだった。


「ん?んんっ?んんんー?」

きちんとまとめたつもりが、ぱらぱらとだらしなく落ちた髪の毛に、溜め息を吐きながら手を下ろした。莇くんに教わったものの、ヘアアレンジがうまく出来ない。おかしいなあ。また明日、もう一度教えてもらおうかな。
莇くんに寝癖を直してもらったあの日、帰宅後、莇くんによる生活改善、もといスキンケア講座が開かれた。事前に東くんに「莇くんと二人きりかもしれない!どうしよう!」と泣きついたら、「ボクも聞きたいな」と一緒に受けてくれた。東くんと莇くんの美容会話のレベルが高すぎてしばしば置いていかれそうになったけど。あと、気になったことも、一つ。
とはいえ、莇くんに言われたことはちゃんとメモしたし(真面目な姿勢を褒められて有頂天になった)、ほかの誰でもなく莇くんにやれと言われたことなので、睡眠も食事もスキンケアも、指導されたことをしっかりばっちり行っている。私、えらい。そのおかげか、最近肌が前よりすべすべになった気がする。体調もすこぶる良い。
……まぁ、その時一緒に教わったヘアアレンジはなんかうまくいかないんだけど。

「器用なんだから、すぐ出来るようになるだろ」

そう莇くんが私に言ったのは、鉄郎さんと一緒に作った小道具を見たからだろう。今回私の一番の自信作は、鉄郎さんにお願いしたら任せてもらえた、万里くんの使う銃だ。あの世界観で、新品のきれいな銃を使ってるのは変だからと、加工して使用感を出した。元々、倉庫にあった小道具をちまちま修理するのが私がやっていたことだから、既製品の加工は一番手慣れた仕事と言える。……なんて言えるほど経験があるわけじゃないけど。
どこをどんな風にしたらいいかなって色々調べていたら、千景くんが知恵を貸してくれたのには驚いた。千景くん、実はガンマニア?って聞いたら、はぐらかされた。あの人、どうでもいいようなことで嘘ついたり秘密にしたりするからなー。

「なまえちゃん、何やってるの?」
「いづみちゃん。ちょっと髪の毛いじる練習。全然うまく出来ないけど」
「結構難しいよねー」

うちは恐ろしく器用な劇団員達がいっぱいいるからねぇ、なんて呑気に話す。
いづみちゃんも来たので練習は一段落。着替えをして、お風呂に入ることにした。

「莇くんに教わったの?」
「う、うん……」

いづみちゃんに笑いながら聞かれたら、なんだか照れてしまって、視線が泳ぐ。誤魔化すために、身体を洗うのに集中するふりをした。

「仲良くやれてるみたいで、よかった」
「うん。秋組の稽古も良い感じみたいだね」
「そうだね、あとは――」

途中で言葉を切ったいづみちゃんは、何を言おうとしたのかな。もうあと少しに迫ってきている秋組公演で、まだ心配なこと。

「莇くん?」
「……と、左京さん、かな」
「ああー」

それね。うん、それかぁ。
鈍い鋭い関係なくきっとみんながわかってる、あの二人の、関係の問題。莇くんが左京くんに喧嘩売りまくりの反発しまくりだもんね。わかる。迫田くんとの方が仲良いのも、わかる。だって迫田くんがショベルカー運転出来るのすごいもん。って前に話したら、「ショベルカー?」って莇くんにぽかんとされた。莇くんの尊敬ポイント、そこじゃなかったらしい。九門くんは「ショベルカー!?なにそれすげー!」ってわかってくれた。

「莇くん、私が左京くんに生意気言うと褒めてくれるよ」
「なまえちゃん、左京さん怒らせすぎないでね……」
「えー?」

ふふーって笑ってうやむやにしようとしたら、「コラ」っていづみちゃんに窘められた。いづみちゃんのこういうお姉ちゃんって感じのところ、好きだ。
……莇くんにとっての左京くんは、こういうのとは違ったのかな。左京くんと莇くん、仲が悪いっていうのとはちょっと違うよね。なにか喧嘩みたいになる原因でもあったのかな。

「気になると言えば、莇くん――」
「どうかしたの?」
「……メイクの道、進まないのかな」

東くんと一緒に莇くんの講義を受けた時にも、チラッとそんな話が出たら、莇くんはばつが悪そうな顔をして言葉を濁していた。東くんはそれにぐいぐい踏み込んでいくタイプじゃないし、私もなにも言わなかったけれど、気になった。
莇くん、メイクについてここまで詳しくなるくらい好きで、本気で取り組んでるのに。

「うーん……」
「んー……」

莇くんのこと。左京くんのこと。湯船に浸かりながらいづみちゃんと二人で考え込む。……あ、これこのまま続けたら逆上せそう。

「あの二人の根本的な問題を解決しないと、公演は迎えられないよね」
「私、なにか出来ることある?」

時々、いづみちゃんとする、劇団についてのこういう話。たぶん、いづみちゃんの立場的に、他の人には言いづらいこと。
私は一応関係者だけど、役者じゃないから。そう言葉で伝えたかどうかは覚えてないけど、私には言ってくれて大丈夫だよって、頼りないけどって、その気持ちはちゃんといづみちゃんに伝わってる。

「ううん、まず私から左京さんに話してみるよ」
「そっか」
「なまえちゃんは、引き続き莇くんと仲良くね」
「いづみちゃん面白がってるでしょ!」

「ごめんごめん、応援してるから」と笑ういづみちゃんに、もー!と口を尖らせる。
カンパニーに二人だけの女の子同士。だからこそこうして二人で過ごす時間が私は好きだし、いづみちゃんもちょっとだけ「監督」を休める時になってたらいいな、なんて思うのは、さすがに図に乗ってるだろうか。

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