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一人でぴーぴー泣いてる姿を莇くんに見られた時は余裕がなさすぎて、話を聞いて一緒にいてくれたことに安心して、嬉しくて仕方がなかったのだけど、後から考えたらなんでよりによってあんなところを見られちゃったんだろうと盛大に凹んだ。それはもう、かなり凹んだ。出来ることならなかったことにしたい。
でも、自己嫌悪に陥るその出来事を思い返すと、莇くんがあまりに優しくてかっこいいから、やっぱり好きって更に思ってにやけちゃう。なんとも厄介な感情だ。
恥ずかしさと情けなさで今すぐにでも穴に埋まりたい気持ちになりながらも、迷惑かけちゃってごめんなさいと莇くんに謝りに行ったら、少し話しづらそうにしながらも「迷惑だったわけじゃねぇ」と言ってくれた。ほら、やっぱり優しくてかっこいい。好きすぎて困っちゃう。

そんな莇くんは、私がめそめそ泣いていた間に夏組のメイクをしていたらしい。「見たい!」と主張して見学に連れて行ってもらったら、莇くんの手によってみるみるうちに変わっていくみんなの姿に驚いて、メイクをする莇くんの真剣な横顔にドキドキした。
莇くん、すごい。
すごいすごいと、感動する気持ちをそのまま伝えたら、莇くんには大袈裟だって言われたけれど、椋くんと九門くんも一緒になってすごいと言ってくれたし、他のみんなも同意していた。ほらね、やっぱりすごい。言われた莇くんは、照れているのか、居心地悪そうな顔をしていたけれど。

そうして、千秋楽を前日に控えた、夜。熱で倒れた九門くんの部屋に向かうと、夏組と十座くん、万里くん、そしていづみちゃんに励まされて落ち着いた九門くんがベッドで眠っていた。

「なまえもいっしょに、サンカクくん沢山置こうー」
「うん」
「くもん、元気になりますようにー」

三角くんに誘われて、九門くんを囲うようにしてスーパーサンカクくんを並べていく。
私に出来ることはこれくらいで、でも、これだけでも、少しでも九門くんが元気になってくれたらと願いながら、丁寧にサンカクくんを置いた。

「ふふっ、九門くん、白雪姫みたいだね」
「んなロマンチックな絵面じゃねーだろ」
「サンカクありすぎ」

いったいいくつあるのか、無限に出てくるサンカクくんを呆れ果てた顔で見る万里くんと幸くんの傍では椋くんが「白雪姫かぁ」と夢見るような顔をしていて、その差がまた可笑しくて笑った。

「ありがとな、なまえ」
「来てくれてありがとう、なまえちゃん」

私にお礼を言って、温かな目で九門くんを見つめる十座くんと椋くんを見ていて、家族だなあって思う。こんなに弟想いのお兄ちゃんと優しい従兄弟がいて、そして、今もずっと一緒にいてくれる夏組の仲間がいる。
みんなの気持ちは絶対に九門くんに伝わってるし、支えになってる。だから、九門くんは大丈夫だよね。

「私達はそろそろ行こうか。おやすみ、みんな」
「おやすみー!」
「明日千秋楽なんだから、早く寝なよ」
「そそ!くもぴも大丈夫そうだし、オレらももう寝るからさ」
「三人とも、ありがとな」

みんなに手を振ってから、万里くんといづみちゃんと三人で部屋を後にする。二人におやすみを言って別れると、廊下で莇くんに会った。

「ひでー顔」
「え!?」

開口一番ショックな言葉を浴びせられて、一気に血の気が引く。私、そんなにひどい顔してる!?

「えええ、み、見ないでぇ」

両手で顔を覆うと、「はっ」と莇くんが笑った。恐る恐る、指の隙間から様子を見る。
う、こんな時でも笑顔が眩しい。私はひどい顔をしているらしいのに。

「心配なんだろ、アイツのこと」
「うん……。でもね、みんなのお陰で体調は大分落ち着いたって」

そう聞いて、莇くんも少し安心した顔になったから、ああ心配してくれていたんだなって、両手の下で表情が緩んだ。

「いつまで顔隠してんだよ」
「だって莇くんがひどい顔って……!」
「あー、それは、心配しすぎって意味っつーか。そんな暗い顔されても、アイツは喜ばねーだろ」
「……うん」

それは、絶対そうだ。私が心配でしょぼくれた顔をしていたら、九門くんも一緒になって悲しい顔になるだろう。そういう、優しい人だ。

「早く寝て、いつものバカみたいに明るい顔見せて安心させてやれ」
「うん。……えっ、待って莇くん、いつも私のことバカみたいって思ってるの!?」
「……」
「莇くん!?」
「ノーコメント」
「ちょっと!」

ねえどういうこと!?って顔を隠すのも忘れて必死に聞けば、莇くんは「さあな」なんて意地悪く笑って誤魔化そうとしたから、その顔のかっこよさでうっかり誤魔化されかけた。というか九割がた誤魔化された。しあわせだった。
……九門くんを助けたり励ましたりしたいのに、助けるどころか、私はみんなに助けられてばっかりだなあ。

「莇くん、ありがとう」
「俺は礼を言われるようなことなんかしてねえ。それに、……アンタが暗い顔してたら落ち着かないのは、九門だけじゃねーから」
「! うんっ」

そうだよね。MANKAIカンパニーは心配性な人が多いから、きっとみんなにも心配かけちゃう。
元気よく頷いて、もう一度ありがとうとお礼を言ったら、「はいはい」と軽く流された。その態度につい、へにゃ、と顔が緩む。
莇くんってちょっと照れ屋さんなんだろうなって最近思う。かっこいいのに、そういうところ、かわいい。

「……」
「な、なに?」

じっと莇くんに見られて、まさか考えてることがバレたのでは、と冷汗が出る。かわいいとか思ってるなんて知られたら莇くん、怒りそう。

「なんでもない。けど、そういう顔してる方が、アンタっぽい」
「私っぽい、かなあ」
「多分な」
「そっか」

莇くんが言うなら、そういうことにしよう。でも莇くんを見て顔が緩んでるのが私っぽいというのも、我ながら不気味というか、複雑な気持ちになるなあ。
……でも、こんな顔をするかは別として、明日の朝、九門くんにはしっかり笑顔が見せられるようにしないとね!

「おやすみなさい、莇くん」
「おやすみ」

今度はきちんとした笑顔を意識して言えば、莇くんも僅かに口角を上げて返事をしてくれた。その表情に、ドキッと心臓が高鳴る。

明日、私だけじゃなくて、九門くんと夏組のみんなの心からの笑顔を見られるといいな。
目を向けた窓の外は、今は真っ暗な夜空が広がっているけれど。でも、きっと明日には燦々と輝く太陽が辺りを照らすだろう。
そして夏組のみんなの笑顔は、そんな夏の太陽に負けないくらい、元気で、明るくて、眩しいんだ。

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