印象について

とっても不本意そうな顔でチラシがはけたことを報告した万里くんにどうしたのかと聞いてみたら、チラシ配りでペアだったという十座くんの愚痴を聞かされた。人相が悪いからチラシもまともに配れないだの、ストリートACTも大根だの……と。その十座くんはすぐそこにいて、万里くんの文句にしばしば口を挟むから、話はなかなか進まないし、ほぼ喧嘩みたいになっているのが怖くて私は逃げ腰だ。

「た、確かに背も高いし十座くん迫力あるから、突然チラシを渡されたら驚いちゃうのはわかるけど……でも十座くん、いい人だから大丈夫だよ!」
「どこがだよ。何の根拠にもなってねーだろ」
「演技だって成長してるからストリートACTだってすぐに上手になるし!」

ね、と十座くんに話しかけると、十座くんは小さく頷いて、万里くんの表情はさっきより歪む。……本当に仲悪いなあ、この二人。

「その悪人面じゃ無理だろ」
「十座くんはいい人だから大丈夫ですーっ」
「んじゃ、俺は?」

万里くんに聞かれて、一度口を閉じる。
万里くんかぁ。

「万里くんは、ちょっといい人……?」
「はぁ!?」
「ふっ……ちょっと、か」

肩を震わせる十座くんに、万里くんが「笑ってんじゃねぇ!」とさっき以上の剣幕で突っかかる。

「ごめん、つい!」
「つい、じゃねぇ!」

ひえ、と後ずさったら、「おらおら、落ち着けー」と臣さんが間に入ってくれた。一緒に、場を収めようと太一くんが慌てたように私に話しかける。

「名前ちゃん!そうだ、俺っちはどうッスか!?」
「えっ?太一くん?太一くんはいい人というか……明るい人、って感じかなあ。一緒にいるといつも元気をもらえる」
「ああ、わかるな」

にこりと穏やかに笑う臣さんは、優しい人、おおらかな人、って感じだ。そう伝えたら、少し照れたように微笑むから、つられて私もちょっと照れてしまった。
「おい、なに和んでんだよ」と臣さんの背後から不満そうな万里くんの声が聞こえたけれど。

「じゃあじゃあ、左京にぃは?」
「左京さんは……」

左京さん。左京さんは――

「怖い人……」
「ぶはっ!」

私の一言に盛大に吹き出したのは万里くんだ。

「あー、名前、後ろ……」
「え?」

臣さんに言われて振り返ると、そこにはこちらを見下ろす左京さんがいた。ゴゴゴゴ……なんて音が聞こえてきそうな迫力がある。
眉間に皺を寄せた左京さんは、いつも怖い顔の、数倍怖い。

「ひっ!」
「……悪かったな、怖くて」

ぷい、と顔を背けた左京さんに、「待ってください!」と声をかける。このままだときっと、私が左京さんのことを怖くて怯えてるって思われちゃう!それが全くないわけじゃないけど、それだけじゃない。

「続きがあるんです……!」
「あ?」
「えっと、左京さんのことを怖いなって思っていたのは事実なんですけど、それだけじゃなくて。左京さん、裏方の仕事もかなり詳しくていつも沢山助けてもらっていて……本当は私が気付けたらなって思うようなことも一番に気付いてくれて、すごく頼りにしているんです。だから、最初は怖い人って思っていたけど……今は頼もしい人っていうのが印象としては一番強い、です」

やっぱり、まだ怖い人って印象もあるんだけど。でも、やっぱりしっかりした人、頼もしい人、って思う。

「大したことはしてない」
「そんなことないです!いつもありがとうございます」

ぺこりと頭を下げたら、左京さんは少し目線を落としながら眼鏡のフレームに触れた。

「よかったですね、左京さん」
「うるせぇぞ伏見」
「左京にぃ、名前ちゃんに怖がられてるって気にしてたッス」
「七尾!余計なこと言うな!」

「やっぱり俺っちにはあたりが強いッス〜!」と嘆く太一くんにくすくすと笑えば、万里くんと目があった。
そういえば、万里くんだけちょっといい人って言って終わってしまっていた。

「あのね、万里くん。万里くんは――」
「秋組のみなさーん!ちょっといいですかー?」

万里くんに話しかけようとしたら、支配人がみんなを呼びに来たので、反射的に口を噤んだ。

「どうした?」
「ううん、なんでもないよ」

大したことでもないし、機会があれば言えばいっか。
秋組のみんなを見送ってから、私はチラシの残りの枚数を数えようと、テーブルに向かう。
チラシもかなりなくなったし、チケットの売れ行きも順調。この調子でいけば、秋組公演も無事に迎えられそう。楽しみだなぁ。

***

チケットは無事完売。ゲネプロを明日に控えた夜、いづみさんが臣さんの忘れ物を戻しに行くというので、ついでに劇場の最終確認をしたいと私も同行してMANKAI劇場へと向かう。

「うそ……」
「何、これ……」

そこにあったのは、切り裂かれてぼろぼろになった、公演の衣装だった。
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