秋がきた

段々と近付いてくる声に、秋組の人達が来たのかなってそわそわした。いったい、どんな人達だろう。
今回は直前まで色々バタバタしていて、掃除とかが間に合わなかったから私はオーディションは見ないで寮で準備をしていた。
それにしても、結構賑やかだなぁ。
ドアの方を見たら、丁度開いたところで――

「んだとコラ」
「やんのか、コラ」
「!?」

不良が喧嘩してる!
えっ、なんで!?怖っ!

目を見開く私に気付いたいづみさんが「名前ちゃん」と声をかけてくれる。それに安堵して……ふと、その後ろに立っている人の顔が視界に入った。

「しゃ、借金取りの人!」

なんで借金取りの人までいるの!?
あまりにも怖いので、これまで可能な限り接触を避けてきた、そして幸いあまり会うこともなかった借金取りの人が、談話室にまで入ってきた。その恐怖に硬直したら、周りにいた人達が「借金取り?」と彼を見る。

「紹介するね、名前ちゃん。この五人が秋組に入った人達」

……え?

「摂津万里くん、兵頭十座くん、七尾太一くん、伏見臣くん、古市左京さん。新生秋組のメンバーだよ」
「えええ!?」

今喧嘩していた、どこからどう見ても不良な人達に借金取りの人まで!?
おっかないのであまりそちらは見れずに、他の二人に目線を向ける。
伏見さんは夏組の写真を撮る時にお世話になったから……あ、もしかしてまたいづみさんのスカウト枠かな。もう一人の赤い髪の男の子は初めて見る子だ。

「あのっ、今度こそちゃんと女の子ッスよね!?」
「はい?」

唐突な、しかもどうしてかやたら必死な顔での質問に呆気にとられた。とりあえず頷けば、「よかったぁー」とへなへなと力が抜けていく。な、なんなんだろう。

「今監督先生も言ってたけど、俺っち、七尾太一ッス!」

一瞬で元気を取り戻した彼はニカッと笑って挨拶をしてくれた。

「苗字名前です。よろしくお願いします」

その勢いに未だ驚きながらも返事をしたら、なぜか太一くんは両手をあげて喜んだ。私、名前しか言ってないよね……?
とりあえず、知り合いだし伏見さんに挨拶をしようかなと思ったところで、視界が一人の男の子で埋まった。ミルクティーみたいな色をした髪に、青い瞳。間近で見た整った顔に、ドキッと心臓が跳ねた。
この人、さっき喧嘩していた人のうちの一人だ。

「アンタ、どっかで見たことある気がすんな」
「へ?」

言われた言葉に誘われるように記憶をたどるけれど、この人と会ったこととか、無い気がする。だってこんなイケメンで怖い人なんて、会っていたら覚えているはずだ。

「あー!万チャン、ナンパッスか!?」
「ちげーよ」

太一くんの言葉に、チッと舌打ちをして彼は離れていった。えっと、たしか摂津万里くん、だよね。
それで喧嘩をしていたもう一人は、兵頭十座くん……、と視線を向けたら目があって、反射的に固まってしまった。だってなんかすごく怖い。
でも、彼の方は小さく会釈みたいなものをしてくれた。とても小さな動きだったから、そう見えただけかもしれないけれど。もし会釈だったなら、案外怖くもない人、なのかなぁ。いや、でもさっき喧嘩しながら入ってきた時、すごく怖かったからな……。

伏見さんには挨拶出来たものの、借金取りの人に近付くのを怖がる私に、いづみさんが「左京さんは昔からずっとこの劇団を見守っていてくれた人なの」と説明してくれて、やっと少し警戒心を解くことが出来た。
でもその彼もまたいづみさんのスカウト枠だったと知った時は、一分くらい言葉を失ってしまった。いづみさん、怖っ。もしかしたらいづみさんが一番怖恐ろしい人なのかもしれない。

秋組に集まったメンバー、あまりに驚きが多くて、展開が目まぐるしくて、やっぱりオーディション、見に行けばよかったなって後悔した。
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