オーディション

春組の時はオーディションはなかったし、唯一あった咲也くんのオーディションは私が授業を終えて劇場に向かった時には既に終わっていた。……まさか、応募があるとも思っていなかったけれど。
だから夏組のオーディションを見学したいとお願いしたら、「もちろん」といづみさんは笑顔で了承してくれた。
スカウト枠がいるって聞いたけど、誰なんだろう?と思っていたら、「こんちはー」という明るい声と共に、見覚えのある人達が入ってきた。

「えっ?」

三好さんに、幸くん!?

「あ、いらっしゃい!二人とも、来てくれたんだね」

嬉しそうに二人を迎えるいづみさんの様子からして、スカウト枠というのはこの二人のことなのかもしれない。衣装とかホームページではとってもお世話になったし、すごいなって思う二人だけど、まさか役者にスカウトするなんて。

「幸くん!」
「出た、握手魔」

学校の後輩がMANKAIカンパニーの役者になるなんて嬉しい!と駆け寄ろうとしたら、なんだか物騒な名前が幸くんの口から出て、動きが止まった。あ、あくしゅ、魔……?

「テンションが上がると握手して人の手をぶん回すから」
「そ、そうかなぁ?」

思い当たりが……ゼロではない、かもしれない。
私の後ろでは綴さん達が「そうだっけ?」なんて話している。あっ、でも春組公演の後全員にやりに行ったかも。真澄くんに、監督以外と手を繋ぐものかと頑なに拒絶されたから覚えてる。

スカウト枠はこの二人のことかと綴さんがいづみさんに確認すれば、いづみさんは「二人とも見込みがありそうでしょ」と笑った。やっぱりそうなんだ。いづみさん、発想がすごい。

「まだ、やるとは決めてないから」
「そうなの?」
「ええー、幸くんやろうよ!」

少し渋っていた幸くんだけど、幸くんの作る衣装は幸くんが一番似合うと思う、といういづみさんの説得で、衣装係兼役者になった。自分で作った衣装で舞台に立つって、すごいことだ。考えるだけでわくわくする。

「ねね、名前ちゃん、オレは?」
「えっと三好さん、オレは、っていうのは……?」
「それ!ゆっきーは名前呼びなのにオレは三好さんなんて悲しーじゃん!」
「ああ!」

そういうことか!
三好さんは年上だし、ホームページを依頼した外の人だし、なにより綴さんが「三好さん」って呼んでいるからそれに倣っていた。でも、夏組に入るってことは劇団の仲間になるってことなんだから、確かに三好さんと呼ぶのは他人行儀かもしれない。

「じゃあ、一成さん」
「うん!後で連絡先も交換しようねん」

JKの友達が出来たー!なんてはしゃぐ一成さんに、そんな大袈裟な、なんて思ったけれど、なぜか至さんが同意していた。女子高生ブランドは本人にはなかなか自覚し辛いもの……らしい。

「あの!!」
「わっ」

皆で話していて全然気が付かなかったけれどいつの間にかオーディション会場に入ってきていた少年、向坂椋くんも聖フローラの生徒と知って、更に後輩が増えたと喜んだのも束の間、最後にやってきたオーディションの参加者に私は口をぽかんと開けた。

「――皇天馬」

サングラスを外して自らの名前を名乗った青年は、何度もテレビや映画で見た顔で。

「えっ……」

どうしよう、大ファンなんだけど。
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