買い物カゴに入っているマシュマロの袋を見て、そういえば高級マシュマロってなんだろう、と考えた。普段スーパーで安いのを買う私にはよくわからない。観光地で可愛い形をしたマシュマロとかなら見たことあったなあ。
そんなことを考えながら買い物カゴに牛乳を入れたら、ふと前方を歩く男性が目に入った。
……なんだろう、あの大量のマシュマロ。
お徳用マシュマロがカゴに山を作っている。密くん以外にもマシュマロ愛好家がいるのかな。もしかして若い男性の間で流行中……?うーん、聞いたことないけど。あのレベルで買い漁られるんじゃ、この辺でだけマシュマロインフレが起こりそう。
ルンルンとマシュマロの山がこんもりと形成されているカートを押す男性の、特徴的な髪型がなんとなく印象に残った。

***

買い物を終えて、両手に買い物袋をぶら下げながら帰路に着く。
途中、前に密くんが気に入っている昼寝場所だと教えてもらったところの近くを通る時、ちょっとだけ寄り道をしてそこを覗いてみた。
日が当たっているとはいっても、この時期にここで昼寝は、私なら絶対出来ないなあ。寒いもん。
密くんはそれでも今日も外で寝たりしているのだろうか。よく風邪ひかないなぁ。
それとも……。
ふと、前に密くんから聞いた話を思い出す。


「昼寝は時々真澄も一緒にする」
「ますっ……!?」

また別の女の人が出てきた!?
何気なく聞かされた一言に、動揺した私はガンッとすねを机の脚にぶつけた。めちゃくちゃ痛い。
「あずま」って名前は正直どっちかわからないというか寧ろ名字かなって思ったくらいだったけど、「ますみ」だったらやっぱり女の人だよね!?密くん、そんなに沢山の女の人のところに出入りしてるの!?
平然と言ってのける密くんに開いた口が塞がらない。ううん、密くんはいつもこのしゃべり方だけど。
でも、「時々」ってことは、やっぱり本命はあずまさん……?
私はいったいなんて話を聞かされているのだろうと頭がくらくらするけれど、でも私の考えてることが事実か、確認していないことは自分でもわかってる。私の思い込みかもしれない……けど、でもそれ以外に何かそれっぽい答えも思いつかない。
でも……。
密くんと距離を取った方がいいのかなと思ったことがないわけではない。でも本人を前にすると結局いつも家で昼寝をさせてしまうし、マシュマロ増し増しのココアだって出してしまう。
密くんの話を聞いてそんなことを考えているのは私なのに、密くんがそういい加減な人には思えないのだ。会った回数の割りに密くんのことを知らないのに、それでも。


手に持った買い物袋が指にくいこむのが痛い。それを持ち直して、家まであとちょっと、と自分を励ました、その時。

「密くん?」

木の幹に寄りかかって寝ている密くんを見つけてしまった。本当にこの寒さのなか外で寝るんだ。わ、しかも一緒に猫ちゃんも寝てる。
そっと近付くと、買い物袋が脚にあたって音を立てた。それに反応して、ぴくりと猫の耳が動く。
どうしよう、起こしちゃったかな。
緊張して、息を潜めて見つめれば、目を開けたのは猫ではなく密くんの方だった。

「なまえ?」
「こ、こんにちは」

まだまどろみの中にいるらしい密くんは眠そうな顔をして猫の背中を撫でる。いいなぁ。

「……なまえも触りたいの?」
「うん」
「こっち」

ちょいちょい、と手招きをされて、恐る恐る密くんの傍へと近付く。猫は起きたけれど、密くんに撫でられるのが心地いいのか、彼の膝から逃げる様子はないみたい。
私が荷物を地面に置くとそれに驚いたように反応して、じっとこちらを見てくる。うう、警戒されている……。

「大丈夫」

きっと猫に向けて言っただろうその台詞に、私の肩の力も抜ける。

「なまえ、手、出して」
「触っても平気かなあ」
「多分」

多分かぁ。
密くんの隣に腰を下ろし、そーっと手を伸ばした。指先が猫の毛に触れる。

「わぁ、撫でられた」
「よかったね」
「うん!」

勝手にしろとばかりに特にこちらに興味を示さない猫ちゃんの体はふかふかでぽかぽかだ。
きもちいい。かわいい。
へにゃ、と自分の顔が緩んでいるのがわかる。

「ネコ好き?」
「うん、だいすきっ」

密くんを見て素直に頷けば、私のことをじっと見つめた密くんが、何故か猫ではなく私を撫で始めた。猫を撫でる私を撫でる密くん。うん、意味がわからない。

「よしよし」
「密くん、私は猫じゃないよ」
「当たり前」

これ、当たり前って思ってる人がする動作じゃない気がする。
どこか納得いかないまま、でも、まぁいっか、なんて思ってしまう雰囲気があるから、私はそもそも密くんと仲良くなったんだろうなあ。……仲、良いのかな。わからないけど。少なくともこの状態には、仲が悪かったらならないだろう。

「……寒い」
「そりゃあこんな中で寝たら寒いよ。私の家でココア飲んでく?」
「うん」

密くんが立ち上がると、猫ちゃんはぴゅっと動いて、瞬く間に道路の向こうに行ってしまった。

猫ちゃんと追いかけっこをしていたから寝る前は暑かったんだと言う密くんは、とても猫と追いかけっこ出来る俊敏さがあるようには見えないのだけど、というか猫と追いかけっこ出来る人間っているのかな、とは思うけど……。
でも、こんな密くんだから、やっぱり私は警戒心を持てないし、いい人だって、そう信じてしまうんだ。

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