Sweet | ナノ


▼ 4

はぁ、と吐いた息は薄っすらと白くなったかと思えば、あっという間に見えなくなった。さみー。
ポケットに手を突っ込んだまま、早いところ寮に帰ろうと足を速める。

「あの、すみません!」

ぱたぱたと足音がして、自分のすぐ後ろで女の声がした。さっきから聞こえていたけれど、まさか俺を呼んでいるとは思わなくて、気にせず歩いていた。けれどあまりに近くて声がしたから気になって振り向いてみたら、不安そうな顔をした女がこちらを見上げていた。あー、前にもあったな、こんなこと。

「やっぱり!前に私のことを助けてくれた人ですよね」
「は?」
「私がスマホを落としちゃって、それを落とし物センターに取に行った時……って、もう忘れちゃってるとは思うんですけど」
「ああ、あの時の」

顔を見た時点で、なんとなくわかっていた。そういえばあの日話しかけられた時も、今と似たような状況だったな。
ただ、あの時と違うのは、俺の反応を見た瞬間、ぱあっと眩しいくらい輝いた笑顔だ。……眩しいってなんだよ。別にそう見えたってことじゃなくて、それくらい表情が変わったってだけだ。

「はい!あの時は助けてもらって、本当にありがとうございました!」
「別に。つうか、よく俺のこと覚えてたな」
「オレンジのパーカーだったから」

そう言われて、制服の下に着ているパーカーに目を落とす。あの日もこれだったか。

「あの、今ってお時間ありますか?」
「え?」
「私丁度そこでお茶するところだったんです。あの時のお礼をさせて下さい」

「別に、いい」と断ったものの、「せっかくまた会えたから!」と一生懸命言われて、結局俺が折れた。
あまり必死に食い下がられて、何もしてないのに俺が悪いことをしているような目で周りに見られるのも面倒だ。つまんねー言いがかりとか、そういうのには慣れている。
そんな理由で頷けば、相手の方は呑気に、にこにこと嬉しそうにコーヒーショップに向かっていくから、調子狂うな、と俺は眉を顰めた。

「えっ、ただのコーヒーでいいんですか?甘いのとか、マシュマロが乗った豪華なやつとか……」
「そこまで甘ったるいのはいい」

密さんなら迷わずそれだろう。彼女が指す期間限定のマシュマロがいくつも乗ったコーヒーを見ながら、密さんなら既に飲んでるかもしれねーな、と思う。

「大人だぁ」

そう言う彼女が頼んだものは、それはもうコーヒーではないのではないかと思うメニューで、俺からしたらそっちを飲める方がすごい。

「あの、お名前聞いていいですか?私は苗字名前です。中学三年生です」
「泉田莇。俺も中3」
「えっ、同い年!?」
「それはこっちの台詞」

一つ下くらいかと思ってた。とはいえ、文字通り目をまん丸くして驚くのは、流石に大袈裟だと思う。そんなに意外かよ。

「あ、笑った」
「は?笑ってねーし」
「ちょっとだけ笑ったよ!」

そんなことどうだっていいのに、苗字と名乗ったそいつはやたら嬉しそうに笑うから、俺はやっぱり調子が狂うと思いながら、なんとなくその笑顔から目を逸らした。

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