Sweet | ナノ


▼ 15

部屋で宿題を終えて、目を上げる。偶然目に入った左京の手にしている本にどこか見覚えがあって、ついそれをじっと見てしまった。

「なんだ?」
「なんでもねー」

あれは、前にアイツが面白いと言っていた本だ。それが少しだけ気になった。

「……面白いのか、それ」
「あ?この本か?なかなか捻った展開だな。この作者はストーリーの組み方が巧い。読んでみるか?」
「いい」

別に本が読みたいわけじゃねぇ。ただなんとなく気になっただけだ。
ふいと顔を逸らして、部屋から出る。なんつーか、落ち着かねぇ。


あの日、苗字を家まで送ると言ったら、目を見開いて「いいよ!」と断られた。あんなことがあった後だから、と思ったけど、アイツにはやっぱりいまいち危機感ってものが備わっていない。それを叱れば、最終的には「ありがとう」と遠慮がちに微笑まれた。
あれ以来、ふとした時に、その時の苗字の笑った顔が頭をちらつく。
いや、ふとした時どころじゃねぇ。やたら苗字のことを考える。アイツが危なっかしいからだ。そう自分に言い聞かせても、やっぱりなんか、ムズムズする。あー、面倒くせー。

リビングに行くと、学生組が何人か寛いでいた。つまんなそーにゲームをしている万里さんに近付いて話しかける。ああいう顔をしてる時は周回中だから気にせず話しかけていいと至さんが言っていた。

「なぁ、万里さんは弱いやつってどう思う?」
「んだよそれ。特に興味持たねーな」
「だよな」

弱そうだから気になるとか、そもそも変な話だ。
苗字には面倒見がいいって言われたけど、んなわけねー。他人の面倒なんて見る気ねーし。苗字が危機感がなくて、弱そうで、ぼけぼけしてるから。それでもって、いつもにこにこしながら寄ってくるから。だから、ついこっちも手やら口やらが出る。

「まぁ弱いっつーのも、何をもって言ってるかわかんねーけどな」
「……」

無言のまま、ゲームを続ける万里さんの斜め前に座る。するとソファの方から「三巻の57ページの、」と聞こえてきた。椋さんと一成さんが少女漫画の話で盛り上がってるらしい。
ルームメイト同士、仲が良いよな。俺からしたら考えらんねー。まじで部屋替えねーかな。
それにしても、相変わらず椋さんの、あの熱意と記憶力はすごい。少女漫画なんて破廉恥で、俺には理解できねーけど。

「ヒロインのことが気になってもやもやしていた理由が、自分が恋をしているからだって気付いた男の子が気持ちを伝えるために走っていくところがかっこよくて……!」
「そうそう!なのに、なかなか会えないんだよねー」

楽しげに話す椋さんと一成さんのところに、臣さんが今日のおやつだとマドレーヌを持っていく。俺も一つだけもらった。
椋さん達の方にぼんやりと視線を向けながら、マドレーヌを頬張る。

「やっと会えたと思ったら、変なヤツらに絡まれてるし!」
「助けだすところも、その後ヒロインに言う台詞もかっこいいんだぁ」

盛り上がる二人を後目に、残ったマドレーヌを口に入れた。
うまい。けど、一つで十分だな。
苗字は目をキラキラさせて沢山食べそうだ。頬が膨らむのがハムスターみてぇ……って、また苗字かよ。

「お前のことが気になって仕方がなくて……放っとけないんだよ!って」

それが恋なら、今の俺まで当てはまりそうだな。はっ、ねーわ。
心のなかで嗤って、何か飲もうと席を立つ。臣さんが紅茶を用意してくれてるみたいだから、運ぶか。

……って、は? 恋?

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