Sweet | ナノ


▼ 12

あまり頻度は高くないけれど、時々泉田くんと会うことにも慣れた、いつもの図書館の帰り道。
突然泉田くんが足を止めたと思ったら、違う方向へと歩き出した。

「泉田くん?」
「こっち」

何かあったのかな、と本来通るはずだった道を覗こうとしたけれど、泉田くんに制止された。いつもより低い、静かな声にドキリとして、私はそのまま声も出せずに彼についていく。
ふと、後ろでぎゃあぎゃあ騒ぐ男の子たちの声が聞こえてきて、びくっと肩が揺れた。泉田くん、あの人達がいるから別の道にしたのかな。知り合いでもいたのかな。
早足で少しの間歩いたら、広い道に出た途端、緊張が解けたように泉田くんの足が緩んだ。それを見て私は、張り詰めていた気持ちを吐き出すように、はあ、と大きく息を吐く。

「なにかあったの?」
「いや……何かある前に避けた」
「?」

言い淀むような、言い方を考えているような、そんな動作をみせてから、泉田くんが再び口を開く。

「俺、無駄に絡まれるから。俺といるのが見られたら苗字も危ないだろ」
「そうなの?」
「そうだろ」

きょとんとする私に、呆れ気味に返される。絡まれるとか、経験がないからいまいちピンとこない。勿論経験したくはないけれど。

「だから本当は、俺とはそんなに関わらない方がいい」
「えっ」

思ってもなかった言葉に、思わず大きな声を出してしまう。

「それは嫌だよ!折角仲良くなれたのに」

……あれ、私達、仲良いよね?私としては仲が良いつもりなんだけど。
こんなに話す男の子なんてこれまでいなかったし、私にとっては間違いなく歴代ナンバーワンの仲良しな男の子だ。でも泉田くんはそう思ってなかったらどうしよう。かなりショックかも。
怖々と彼を見上げると、泉田くんはなんともよくわからない表情をしていた。眉間に思いっきり皺が寄っているものの、怒って……はなさそうだけど、なんだろう。あ、耳が赤い。

「……わかったから、とにかく、気を付けろよ」
「うん!」

絞り出すように言われた言葉に、大きく頷く。
否定はされないってことは、仲良しと思っていいのかな。
そう長く知り合いなわけでも、泉田くんのことを沢山知っているってわけでもないけれど、これまでの付き合いの中で、なんとなく、そんな気がする。
嬉しくてにこにこしたら、「ぜってーわかってねー……」と不服そうに言われた。

「わかってるよ!」

だって、心配とか迷惑とかかけないで、私は泉田くんと仲良くしていたいもの。
「ぼけぼけしてないで気を付ければいいんだよね」ときちんとわかっていることをアピールするつもりで言えば、「ぼけぼけしてる自覚あったんだな」と驚いた顔をされた。ひどい、と泉田くんの腕をぽすぽす殴ってみる。

「全然痛くねー」

泉田くんがそう言って笑うから、こんな風に普通に笑ってくれることが嬉しくて、私は怒るポーズをすることも忘れて、一緒に笑ってしまった。単純だなあって、自分でもちょっとびっくりするくらいだ。


「あ、そうだ。ジュースの缶捨てなくちゃ」

泉田くんはとっくに飲み終えて捨てているけれど、私はちまちま飲んでいたので、ついさっき飲み終わったばかりの缶を捨てようと周りをきょろきょろする。あれ、この辺ゴミ箱あったと思ったんだけどなあ。

「自販機ならあっちにあるけど」
「行ってくる!」

小走りで駆けていく私に、すかさず「転ぶなよ」と声がかけられる。そんなすぐに転ばないよ、と思いつつも返事をして、自動販売機を探しに行く。

その選択が良かったのか悪かったのかは、どちらとも言い難い。けれど、私にとっては悪い選択だった。
なかなかゴミ箱が見つからなくて、やっと缶を捨てて戻った時、泉田くんがいた場所に、彼はいなかった。

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