私は万里くんに甘やかされているのかもしれない | ナノ
「あったかーい」

暦のうえでは春とはいえ、まだ外を歩いていると寒いからと、テイクアウトの飲み物はホットにした。
とにかく甘いものを飲みたい気分だった私が頼んだのは、ホイップもキャラメルもたっぷりのラテ。歩きながら一口だけ飲んでみたら、ふわりと口に広がった甘さに、にこにこと顔が綻ぶ。

「名前のラテ、すげー甘そう」
「おいしいよ。万里くんも一口飲む?」

両手で持ったカップを差し出したけど、首を振って断られてしまった。おいしいんだけどなぁ。

公園のベンチに並んで腰かけて、ラテを一口飲む。やっぱり甘くておいしい。
それにしても、こうやって座る時いつも当然のように万里くんの腕が私の方に伸ばされるのには、やっぱりドキドキする。今日はベンチの背もたれに手をかけているけれど、肩に腕を回されることもある。どっちにしろ恋人っぽいなって思って緊張してしまって、でもそれが同時に嬉しくもある。
私達が来るのと、ベビーカーを押したお母さんが公園を出るのとは入れ違いだったので、小さな公園には今は私達以外誰もいない。
静かで平和だなあ。

「ラテ、やっぱ一口もらうかな」
「どうぞ。まだあったかいよ」

私がカップを差し出したら、万里くんは「そっちじゃねぇ」と小さく笑った。これじゃないってどういうことだろう、と不思議に思ったところで、万里くんの手が私の頬に添えられ、顔が近付いてきて──キスをされた。

「あっま」
「っ!」

唇が離れた瞬間発せられた、心底甘いって反応に、急激に恥ずかしさが襲ってきて真っ赤になる。カップを落とさずちゃんと持てているのが奇跡だ。両手で持っていてよかった。
恥ずかしくて声も出なくて、助けを求めるようにラテを飲むのを万里くんがなぜかじっと見ている。な、なんだろう。

「名前」
「な、なに?」
「やっぱもう一回」

その言葉に目を丸くしている間に、万里くんの手が背中に回る。に、逃げられない。そもそも最初から拒否権なんてもの無いのかもしれないけど。
万里くんにいいよも何も言ってないのに、もう一度重なった唇は、さっきの万里くんの言葉のせいか私にもいつもより甘く感じられて、その甘さにくらくらしながら、ぎゅっと目を瞑った。
外の寒さはどこへやら、ホットなんて頼まなければよかった、と思うくらい身体があつい。万里くんとくっついてるから余計にそうなのかな。ドキドキすればするだけ、あつくなる。

「やっぱすげー甘ぇ」
「文句言うなら……」
「文句じゃねーって。なんつーか、この甘さ、クセになりそう」

ぺろりと自分の唇を舐めた万里くんの舌をつい見つめてしまう。
その動作に、言葉に、ドッと心臓が大きく鼓動した。

「っ、も、もうダメだからね!ここ外なんだよ!?それにラテももう無いんだからっ」
「チッ」

間違ってももう一回なんて言われないようにそう言ったら舌打ちをされたので、本当に先手を打っておいてよかったとホッとする。

「うう、このラテしばらく飲めない……」
「ふーん?」

にやにやとこっちを見る万里くんが憎らしくて、「万里くんのせいだからね!」と言えば、「そうだな」と笑って肯定されたので、なんだかとっても負けた気分になった。
飲めないどころか、この調子じゃあのお店を見るだけで万里くんのことを思い出しそうで、万里くんのばかばかと腕をぽすぽす叩いてみた。「へいへい」なんて軽く流す上機嫌な万里くんには、痛くもかゆくもないみたいだったけど。

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