私は万里くんに甘やかされているのかもしれない | ナノ
今思えば、多分再会した時、最初に名前を可愛いと思った時点で、こうなることは決まってた。
好きだとか自覚するのはこっぱずかしーし、そういうの、笑えるくらい似合わねーって思ったけど、そう思ってる時点で既に抗いようがないところまで来ていることもわかってた。

名前と再会した時に寄った公園は、俺らの住んでる中間地点より少し名前の家に近く、割と便利な位置にあるから待ち合わせによく使う。
そろそろ来っかな。
そう思ったタイミングで、こちらに駆けてくる足音が聞こえて目を上げた。ビンゴ。
パタパタと駆けてくる名前は俺と目が合った途端パッと表情を明るくするから、それが眩しくて目を細める。

「万里くん、どうしよう!私、大学受かっちゃった!」
「マジか!」

大興奮で俺に報告にきた名前とハイタッチして、一緒になって喜ぶ。自分の受験結果にすら、こんなまともに喜んだことはない。「やったな」と言えば、心底嬉しそうに頬を上気させて「万里くんが応援してくれたから」と可愛いことを言ってきた。
受かったらラッキーと言う名前が、本当にそのつもりで受けたのは知ってる。そして合格してくれて良かったと、本当に思う。

「結局、名前と一緒の学校には通えなかったな」
「小学校も、すぐに引っ越しちゃったもんね。……って、万里くんの受験、一応まだ終わってないよ。志望校違うけど」
「俺が落ちると思うか?」

名前は俺の言葉にぱちぱちと瞬きをし、それから「ぜんぜん」と笑った。楽しそうに笑う、その顔が好きだ。いつも可愛いとは思うけど、俺の隣で笑ってる時が一番可愛い。逆に、俺の隣じゃないところで笑ってんのはちょっと可愛くねぇ。あんま見たことねーけど。

「今度合格祝いしねーとな」
「やったぁ! なら、私は万里くんを応援する会を開くね」
「なんだそれ」

ふふっ、と笑う名前は、「何しようかなあ」なんて呑気な声で言う。俺のために何かしたいんだっつーことはわかるし、意味不明なことを言ってても、それすら可愛く思えるんだから、俺も相当重症だ。……つーかコイツ、可愛いことしかしねーんだよな。なんて、付き合ってもないのにノロケみたいなことを思う。

名前は鈍いし抜けてっから、コイツが俺のことが好きだってことは、本人が自覚するのより俺のが先に気付いてた。
好きになったヤツに好かれるのは、人生イージーモードだから当然って、いつものように受け入れるのが何故か今回ばかりはうまくいかなくて、頭では理解していても、いつだってどこか心に余裕がなかった。俺が散々わかりやすくアピールしてんのに、名前は「優しいなー」くらいにしか思ってねーし。俺が名前を好きで、名前も俺を好きだって知ってんのは俺なのに、名前が鈍すぎるせいで俺のが何故か余裕ねーし。

「万里くん、なにかしたいこととか必要なものとかあったら言ってね。そりゃあ万里くんだから合格する気しかしないけど、でも私、精一杯応援したいから」
「必要なこと、なぁ。ないわけじゃねーけど」

チラッと名前を見ると、必要なものがあると言われたのが予想外だったのか、「なに!?」とびっくりした顔で、目をキラキラさせて聞いてくる。
俺に必要なこと。いつかははっきりさせなきゃなんねーこと。
俺っていうか、俺達に。

「……なあ、いい加減シロクロつけねぇ?」
「シロクロ?」

意味がわからずきょとんとしている名前と向かい合う。
ガラにもなく緊張してんのか、口のなかがやたら渇く。
俺の気持ちも、名前の気持ちも、ずっと前からわかってんのに。俺の心臓はさっきからぶっ壊れたみてーに暴れてる。勿論そんなのは微塵も外に出さねーけど。
俺はまっすぐに名前を見つめて、今まで言っているつもりでいながら、口に出すことはなかった言葉を告げる。

「好きだ」

俺を映す、名前のガラス玉みたいな瞳がきらりと光った。それから一呼吸おいてやっと俺の言ったことの意味を呑みこんだ名前は、りんごみてーに顔を真っ赤に染めた。あーあ、涙目にまでなってんの。
俺の一言にありえねーくらい動揺して、いっぱいいっぱいになってる顔を見て、あー、キスしてーな、と思った。
今の俺にはまだ、その権利はない。
……なあ、だから、早くくれよ、名前。

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