「うわあ、すごい…」
「植物園って、こんなに広かったんだね」
「ね!」

普段、自分で行こうと思うのでなければ、特に入る機会もない無限植物園にクラス全員で来ているのは、オリエンテーションが行われることになったから。広く見識を深めるためだとか、あと、新しい品種の植物の紹介のためでもあるらしい。

「これは全部薔薇。ブルームーンに、ダイアナ、エスメラルダ、ソリドールに初恋」

次々に紹介される、色とりどりの薔薇は、形や大きさ、花びらの枚数も全然違っていて、驚く。まるで、違う花みたい。

「こっちにあるのは百合よ。ヤマユリ、テッポウユリ、カサブランカ…」

百合の花の近くを歩くと、これでもかというくらいに、百合の香りが漂ってくる。まるで、全身を包まれているみたい。そういえば、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花、なんて言うけれど、みちるちゃんって、正にそんな感じかも。

「そして、この一番奥にあるのが、今話題のテルルンよ」

水をあげなくても、空気中の水分で、育つことが出来るらしい。すごいなあ。
テルルンは、今まで見たどの花とも、何か…形かな?香りかな?何かが、違う気がする。だから、こんなに今人気なのかな?

「今回のオリエンテーションで、中等部の生徒は、自由にテルルンを持って帰って良いことになっています。好きなものを選んでね」

その言葉に、クラスメート達は、わっと鉢植えに群がっていく。それを見ながら、なんとなく、私は動けなかった。

「名前ちゃんはいいの?」
「うーん…」

自分の部屋に置く?といっても、私一人だし、それに、それを見つけた時に、みちるちゃんとはるかくんに何か言われそうな気もするんだよね。「あら、私の分は?」とか。高等部はもらえるのか、知らないし。でも、みちるちゃんにだけあげたら、はるかくん、また拗ねそう。でもはるかくん、花を育てるイメージ、ないしなぁ…。そもそも、水はいらないとはいえ、海外に行くことが多い(最近はあまり行ってないみたいだけど)二人に植物をあげるのも、やっぱり、迷惑なんじゃないかな。
…なんて、考えていたら、動くに動けなかった、という方が正しいかもしれない。いつの間に、私の考えることは、あの二人が中心になっているんだろう。

「うん、やっぱり、私はいいかな」

自覚すると、少し恥ずかしくて、少し情けなくて、少し照れくさい。そして、ほんの少し苦しいような気持ちになりながら、私はテルルンを貰いに行くという友達を見送った。
花は咲きつつ

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