ここは、親の力というものを使って、私は直ぐに三角州から避難した。色々と持ってきたいものはあったけれど、それらはこの際、諦めて。
この事件の真相は、いまいち、よく分からない。よく分からないけれど、取り敢えず街から怪物は消えて、無限学園は理事長の土萠教授が入院やら何やらで、滅茶苦茶。お父さんからは、これ以上あの学校に通わせるのは不安だから、やっぱり一緒に外国に来いと言われるし、みちるちゃんとはるかくんは―…
みちるちゃんとはるかくんは、あれから、一度も姿を現していない。
けれど、お父さんには電話で連絡があったらしく、申し訳ないけれど、どうしてもやらなければいけないことが出来たので、どこか遠くへ行くこと、私の面倒を最後までみれない謝罪とかをしてくれたらしい。元々、私からお父さんに話してはあったし、二人がどれだけ私のことを守ってくれたかはお父さんも分かってくれていたので、二人の話をすんなり理解してくれたみたい。
それが、私が知っている最後の、二人のこと。
二人が今どこにいるかは分からない。何をしているのかも、分からない。でも…


***


「ここかー」

伝統的な、趣のある校舎。数多の女学生たちが学んで、笑って、涙を流してきた場所。無限学園は、新しい学校だったから、そういう意味では、正反対の学校かもしれない。

私立T.A女子学園。高等部からの入学は受け付けていないこの学園の中等部に、私は今日から転入する。…っていっても、卒業間近なんだけど。この時期の転入なんて、有り得ないよね。嫌だなあ、馴染めなさそう。そうは思うけれど、日本に残ることを。そして出来るだけ、三角州から近い場所をと望んだのは私だ。学校くらいは、お父さんの希望する学校に通わないと。そもそも、私のお父さんがお父さんだからこそ、こんな時期の入学が許可されたんだろうし。試験は勿論、ちゃんと受けたけれど。

まだ冷たいけれど、柔らかい風が髪を靡かせる。はるかくんだったら、この風をなんて言うんだろう。みちるちゃんは、今日も、海の音を聞いているのかな。

いつ会えるのかは分からない。でも、みちるちゃんとはるかくんが言ったから、いつかは必ず、二人に会える。そして、理由はないけれど、二人に会えるのは、他のどの国ででもなく、この日本でだと思う。だから私は、ここにいることを選んだんだよ。

さあ、新しい学校生活と、私の本当の「一人暮らし」が始まる。校舎に向かって、一歩、足を踏み出す。
みちるちゃん、はるかくん。私、がんばるからね。今度二人に会ったら、驚かれるくらい、成長するから。だから、私がそうなように、二人も、私にまた会う日を楽しみにしていてくれたら、嬉しいな。

職員室に向かって歩いていると、ふと、カサブランカの香りがした。辺りを見回しているけれど、朝のこの時間、生徒なんて沢山いて、どこからこの香りがしたのかなんて、分からない。
でも、きっと、この場所で何かが私を待っている。そんな気がして。

白い花の面影に、新たに胸に期待を抱いて、私はまた一歩、足を踏み出した。


The end. And to the next stage...
旅立ちは、カサブランカの香りを連れて

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