いつものように、みちるちゃんとはるかくんと、お買い物に来た。
最近では、時間があると、よくこうして三人で外を歩いている。近頃は、学校でまで怪物が現れたりして、何かと物騒だ。私が気分転換出来るように、外に誘い出してくれる二人には、本当に感謝だなあ。お父さんにも、この二人に会わせてくれてありがとうって、ちゃんと伝えておこう。
街に怪物が現れたのは、そんな時だった。

「ひっ!」

逃げ惑う人達を後目に、ビルが砕かれたのを見てしまい、悲鳴を上げた。体はガタガタと震えるだけで、まともに動けない。

「名前!」

はるかくんが私のことを守るように、肩を抱く。

「逃げましょう。さあ、こっちよ」

みちるちゃんに手を取られ、引っ張られるようにして、二人に支えられながら、走る。

「はぁっ…ここなら大丈夫だろう」
「そうね」

建物の陰まで私を連れてきてくれた二人は、お互いに目配せをしてから、私の方を見る。その目を向けられるのが嫌で、ぎゅっと、ありったけの力で、二人の手を握った。

「……名前」

空いている方の手で、私の肩に手を置いて、眉尻を下げるはるかくん。その隣にいるみちるちゃんも、困った顔で、何かを言いたそうに、私を見ている。ううん、ごめんね、違うの。そんな顔をさせたいんじゃないの。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。深呼吸をしてから、私は、今の私に出来る限りの笑顔を作る。

「二人とも、行くんだよね」
「!」
「いってらっしゃい。気を付けてね」

私は、ここで待ってるから。
二人が戸惑いを口にする前に、そう言い切って、再度笑った。はるかくんの手が、私の頬を撫でる。

「…わかった」
「行ってくるわ」
「うん」

二人は、お互いに頷きあってから、私に背を向けて走り出す。あまりの速さに、少し、驚いた。
みちるちゃんとはるかくんが、何か大きな秘密を抱えているんだろうことも、時々、姿を隠していることも、知っていた、という程ではないけれど、なんとなく、感じてはいた。
私には、それに口出しする権利はなくて、それについて聞くことすらも、許されていないんだろうなって思ったから、いつだって、考えないようにしてきた。ただ、目に映る限りの平和な世界の中では、二人と、楽しく、笑っていたいと思っていたから。それが、あの二人に対して、私に出来るせめてものことのように、感じていたから。

二人の温もりがまだ残る掌を見つめる。二人のことを見送る日が来たら、もう、二人は戻って来ないような気がしていた。
でも、私には、二人を送り出す以外、出来なかった。それが悲しい気持ちもあるけれど、でも、間違ったことだとは思わないから、後悔なんて、ない。

「いってらっしゃい。気を付けてね」

ありがとう、みちるちゃん。はるかくん。いつも私を守ってくれて。
知っていたけど、知らなかったこと

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