純情は食らいつくされた


幼い頃から、なまえは会う度いつもひらひらとフリルやリボンが沢山ついた洋服を着ていた。オヒメサマみたいだ、というのは莇が思ったことだったか、それとも大人が言っていたことの受け売りか。
それがなまえの趣味ではなく、祖父が可愛いからと買い与えていたもので、当初、本人には特にこだわりはなかったと知ったのは、結構後になってからだ。それでも、莇に会う時だけは、自らクローゼットを開けて服という服を引っ張り出し、どれが一番可愛いかと周りの大人を巻き込んで散々吟味していたらしい。
それをある程度の年齢になってから人づてに聞いた時の莇の反応は、想像に難くないだろう。



「はい、これ莇にお土産」

真澄と一成、そして東と一緒に出掛けた店で買って来たという土産を受け取りながら、莇はぽつりとお礼を言う。
なまえが真澄と意味不明且つ不穏な同盟を結んでからというもの、二人が話している姿をよく見かける気がする。そう思うのは、なまえが「作戦会議」に行く際には必ず事前に莇に報告をするからというのもあるかもしれない。
そんなこといちいち報告されずとも、二人が仲良くなろうとも、真澄となまえどうこうなるとは思えないのだが。真澄が監督から心変わりするなんてことは有り得ないし、なまえが真澄を好きになることもないだろう。自分でもそう思える程度には、莇はなまえに長年、真っ直ぐ好意を寄せられ続けてきた。
……ただ、それが面白くないと感じるのは、また別の話だ。

「……」
「どうかしたの?」
「なんでもねぇ」

浮かない顔をする莇を心配するなまえは、まさか自分がその原因になっているなんて都合の良いこと、夢にも思っていない。

「そうだ!元気がない時はね……」

なまえが鞄から黒飴を一つ出して、両掌の間に挟む。

「どっちだ?」

パッと離した両手をそれぞれグーの形にしたなまえは、どちらの手に黒飴が入っているかを当てるよう促した。「咲也さんに聞いて、千景さんにやってもらったの!千景さん、上手すぎて全然わからないんだよー」なんて楽しげに話しているが、なまえの握った手の形は左右差があり、どちらに黒飴が入っているかは明らかだ。本人はもぞもぞと指を動かして誤魔化そうと努めているようだが。

「こっちだろ」
「正解!」
「下手すぎ」
「ええー、そんなに?」

莇に当てた報酬として黒飴を渡しながら、なまえは残念そうな顔をした。それを見て莇が笑う。

「自分の手のサイズ考えろよ」
「黒飴くらいいけると思ったのに」
「全然いけてねぇな」

自分の両手を見つめてから、なまえはじっと莇の手へと視線を移す。

「莇、手大きくなったもんね。手、繋ぐっ?」
「なっ……繋がねぇ!」
「ざんねん」

むぅ、とわざとらしくむくれるなまえに、莇は赤くなった頬を隠しながら負けじと顔を顰める。
そもそも、なんでコイツはいつも手ばっかり繋ぎたがるんだ、と莇としては照れに加えて不可解さもあるのだが、それを聞くのも気恥ずかしいので聞けはしない。
手を繋ぐとか、そういうのは婚約してから。
それはなまえだって知ってることだが、どちらかといえばそれで手を繋ぎまくって既成事実を作りたいという、若干ずるいというか、邪な気持ちもある。勿論、一番の理由は別にあるけれど。

「さっき幸さんに、私は悩みとかないのかって聞かれたんだけど」
「随分突然だな」
「答えようとしたら、莇関連以外でって言われて、困っちゃった」
「困るなよ……」

戸惑うやら照れるやらで莇が片手で頭をおさえる。

「莇は?なにか悩みとかある?」
「……。なまえが――」
「えっ、私!?」
「……」
「あら?どうして黙るの?」
「さぁな」
「教えてよーっ」

莇ってば、となまえが必死な顔で縋って来るのを、いつもの仕返しだ、と莇は小さく笑った。悔しいけれど、この少女に散々振り回されている自覚はある。

「別になんもねぇって」
「うそだぁ」
「本当」


莇の後をいつも以上にくっついて回るなまえを見かけた咲也はきょとんとして、綴は呆れた顔をした。二人の後ろを歩いていた密は一瞬目を開いて、また寝た。

「本当になまえさんは莇くんが大好きなんですね!」
「だなー……って密さん!立ったまま寝ないでください!」

back top next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -