私の乗ったブランコからは、きぃ、きぃ、と錆びた金属の擦れ合う規則正しい音がする。1週間前と違うのは砂場の周りを囲むように置かれた三角コーンと虎ロープ……そして、隣にある動かないブランコだろうか。公園の樹木の枝は傾いた日によって影を作り、地面に細長く投影されていた。あの日と同じ、真っ赤な空。ここにくれば、彼にまた会えるような、そんな気がした。







気持ちの整理が追いつかない。高専側の読み違えにより遠方に派遣された後輩の内1人が死に、もう1人も大怪我を負った。2人とも、優しくて、真っ直ぐで、誰かに嫌われるタイプではない素晴らしい青年だった。このまま呪術界に染まっていくことが少し悲しくなるくらいに、いい子達だった。だからといって、私より先に逝くことなんてないだろうに。凄惨な傷が残る遺体を見た時は涙すらも出なかったけれど、献花を探しに出た小さな花屋に生けてあった大輪の向日葵を目にした時、太陽みたいな笑みを浮かべる彼を思いだした。途端、歪んだ視界から零れ落ちた水滴に拭い切れないほど頬を濡らして、私はその場に蹲み込んでしまったのだ。どうして世界は、優しい人ほど先に連れ去ってしまうのだろうか。




子供の頃は地面に付かなかった靴底が容易に触れているのに時の流れを感じた。自ら揺らしていたのを止めるように膝に力を込めると、鳴いていた金属音が消え、あたりは静寂に包まれる。ぼんやりと目的なく見つめた地面には橙色の木漏れ日がまるで道を作るように私の目の前に点々と続き、何かを考える余裕もなく視線で追いかけ、そして、先にあった鈍く光る男性モノの靴にゆっくりと顔を持ち上げた。







「やっぱり、ここに居た」






出会った時から何も変わらない、落ち着いた調子で抑揚の少ない彼の声。高専に居た時と同じ真っ黒で、でも少し襟ぐりが開いたどこか解放感のある服装。私の目の前で憑き物が落ちたように笑う彼は、数日前に100人以上の人間を殺し、死刑対象となった……私の、友達だ。平然とした様子で、だけど以前より距離を取りながら佇む彼の頬にはあの日の帰りのように煌々とした夕陽が差している。まるでそういった模様を顔に描いたみたいに。夏油くん……?と彼の名前を呼ぶ自分の声が、形のないものを掴むみたいにあやふやなことに心が痛んだ。





「あぁ、そうだよ。会えてよかった」
「私は……会いたくなかったけど、会いたかった、かな」
「複雑な感情だね、でも気持ちはよく分かる」





静かに此方に歩みを進めた彼を見て、殆ど反射的にゆっくりとブランコの持ち手から手を離し、もしもに対応する準備をしている私が居る。呪術師として得た本能が既に、彼が何かに染まってしまったこと苦しいほどに訴えかけて来ている。夏油くんはそんな私を鼻で軽く笑ってから先程まで空だった吊られた椅子に腰掛けた。近づいた横顔がどこか寂しそうに見えた。……きっと彼は気付いている。私が確かに今自分を警戒したことに。夏油くんはそれを察せられないほど鈍い人ではなかった。彼にそんな顔をさせてしまった自分が腹立たしくて、警告音を響かせる私の体を無理矢理、強い意志を持って捩じ伏せようと思い切り鎖を握った。少し目を開いた彼は「……鉄臭くなるよ」と呟いたけれど、私は出来るだけ得意そうに見せようと口角を上げて、それだけで済むなら、と答えた。





「……そういう所は相変わらず頑固だね」
「……夏油くんこそ、こんな所を心配してくれるの、変わらないね」
「私を変わらないと言うのはきっと君くらいだよ」





自嘲したような微笑みを浮かべてから、子供みたいに地面を蹴り出して大きく揺れる彼を止まったままの私が見つめた。色々な意味で進み出した夏油くんと、留まって動かない私の間には大きな溝が生まれている。……夏油くんの思想は、私より先に彼と会った硝子から聞いた。彼は非術師をこの世から消し去り、術師だけの世界を作り出そうとしているらしい。私にはその詳しい理由は分からなかったが、そのきっかけや"片鱗"のような物は正にこの場所で、彼から感じ取った気がしたのだ。五条くんも夏油くんとは街で会ったようだけど、その日以来彼とは顔を合わせていないので、何を感じたのかは分からない。硝子は夏油くんを"犯罪者“と呼び笑いながらいつもの倍くらいの煙草を吸っていた。……私は、どうしたいのだろうか。





「……捺、君なら私の気持ちは分かると思う」
「……夏油くんの、気持ち?」
「ここで見ただろう。非術師の身勝手で呪いになってしまった小さな女の子を」





今はここにいるけど、と自分の腹部を壊れ物を扱うみたいに撫でる夏油くんは、封鎖されている砂場に目を向けながら語り始める。その目は静かながらも、確かな決意と信念に燃えているのが分かる。魂が抜けた幽霊のように今にも倒れそうな雰囲気で任務をこなしていた姿より、今の彼の方がよっぽど健康的に見えるのは皮肉な話だ。





「捺は前に言っていたね"何が正しいかは分からないがそれを裁けるのは自分じゃない"と」
「……うん、言った」
「それに間違いはないと思う。……でも、実際、誰が裁けるのかは明確じゃない」
「…………」
「私は気付いたんだ。誰も裁かないのなら、私が裁けばいい。自分の持つ力や出来る事全てを使って、この世界の悪循環を止める、とね」





夏油くんが掲げたそれを、私は笑うことが出来なかった。彼はそれだけ本気だったのだ。非術師が生み出した呪いを術師が命を賭けて祓っても、非術師がまた過ちを繰り返す……彼の語る悪循環を否定する事が、出来なかった。夏油くんの言う通り、私は彼の気持ちが少し理解出来る。もし呪いを生み出すものが居なくなれば、命を燃やし尽くしてしまう人も、家柄で苦しむ人も居なくなるのかもしれない。そんな甘美で、夢のような世界を、夏油くんはきっと真摯に追い求める事を選んだ。それがどんな道であれ、誰に蔑まれても、彼はきっと、その為に全力を尽くすのだろう。私を頑固だと呼んだ彼が、私以上に意固地で頑固になる時を見かけた事がある。彼はもう、止まらない。





「あの子の親だった若いカップルは死んだよ」
「……え?」
「ここに来る前に殺して来た。そこには生まれて間もない痩せ細った赤子も居てね」
「そんな……」
「結局彼等も何も学ばなかった。過ちを繰り返そうとしていた。……寧ろ私たちが彼女を祓ったことを清々したとすら思っていたのかもね」





若いカップルというのは、きっとあの砂場にいた子供の親だった2人であろう。実の子を殺して砂場に埋めた彼らが新しい子を作り、また虐待を繰り返した、その事実は私重くのしかかる。彼らはまた、子供を呪おうとしていた。それが意図的であれ、無意識であれ、そこに罪がないと私は本当に言い切れるのだろうか。夏油くんの語る理想の世界にはそんな不幸な子供は生まれないのだろうか、ぐるぐると回る思考に頭の奥が締め付けられるようにズキズキと痛んだ。善悪なんて紙一重だと、昔読んだ小説に書いてあった言葉を不意に思い出した。今私の目の前にいる夏油傑という呪詛師は、悪人なのだろうか?それとも見る人によっては神に近しい存在なのだろうか?そして、私にとっての彼は、一体どちらなのだろうか。






「捺、私が今日ここに来た理由は……君を誘いに来たんだよ」
「わたし、を?」
「そう。悟や硝子はきっと賛同しないだろうけど、君なら……分かってくれるんじゃないかって」






長い足を伸ばして勢い付いたブランコから飛び降りた彼は黄色い柵を超えた先に危なげなく降り立った。羽でも生えたかのような軽やかなその動作には少し前まで苦悩していた彼の面影は感じられない。重い鎖から解き放たれて、自由になった子供のような無邪気さすらも感じられる。私は彼の生きづらさや苦しさを知らなかった。本来の彼はもしかするとこんなにも軽やかで、囚われない人だったのかもしれない。この場に似つかわしくない感情を抱く私に夏油くんは手を差し伸べる。まるでダンスにでも誘うような仕草のそれを見つめた私に彼は「遊具で遊ぶだけだよ」と屈託ない笑みを浮かべた。……罠かもしれない、攫われるかもしれない、殺されるかもしれない。さまざまな疑念が湧き立つ中で、それでも私は大きくて柔らかそうな掌の上に、自らの手を重ねた。理由は分からないけれど、私はまだ彼を信じていたかったのかもしれない。柔らかく、そっと手を握り返した彼は私をブランコから誘うと、優雅に他の遊具の方へと導き始める。



平均台の上に足を掛けた私を、まるで支える父親のようにして下から手を持ってバランスを保つのを助け、そのままシーソーの上にまでいざなっていく。靴のままで踏み荒らしてもいいものか、と彼に目を向けると「たまには良いだろう」と悪戯っぽく笑って見せる。捺は真面目だね、と言いながらも僅かな段差を飛び降りる時ですら立ち止まり、見守ってくれる彼はやっぱり、優しい人だった。無数に立ち並ぶ登り棒の前では、まるでストリップでもするかのように腕や足を掛けてくるりと舞う彼に釣られて、私も同じように踊って見せた。拙い足捌きで、本来の使い方とはまるで違うのに、彼はいいね、と褒めてくれる。不思議と私の顔にも笑顔が浮かんだ。次に立ち塞がったのは子供用の小さな滑り台の階段だったが、背の高い彼には関係ないらしい。私がその上に立っても尚、少し上に腕を伸ばすだけで彼と繋がれたそれは離れる様子がなかった。




「スカート、気をつけてね」
「うん……久しぶりだなぁ滑り台」
「私も他人が滑るのを見るのすら久しいよ」




一日中日に照らされた金属の板は少しひり付くような熱を持っていて、気を付けながら腰を下ろして爪先で漕いでみたけれど、あの頃のような飛び出すような爽快感は無く、平行になった地点で敢えなく止まってしまった身体に月日を感じた。夏油くんも似たような事を思ったのか昔は並んでまで滑ってたのに、と肩を落とす。……そして、最後に訪れたのは明らかに危険だと訴えかける装飾を施された砂場の前で、私と彼はただそこを静かに見据えた。夏油くんは悪びれる様子なくコーンを一つ退かすと、近くから木の枝を拾って来て「棒倒しでもしようか」と持ち掛けてきた。





「……ここで?」
「彼女の骨はもう警察が拾って行ったよ、ここには何も残っていないんだ」
「……そう、なんだ」
「捺。今から一つ、賭けをしないか?」





賭け?と素直に聞き返した私に彼は頷きながら私の手を離すと、砂を集めて山を作り、そのてっぺんに棒を突き刺して見せる。何の変哲もない棒倒しの準備を終えてからその場に屈んだ彼は私を数秒見つめてから、ふ、と頬を緩めた。





「もし君が倒したら、私と一緒に来る」
「……夏油くんが倒したら?」
「この話は無かったことに。……どうかな?やるのもやらないのも君に任せるよ」
「それだと私に得が無いと思うけど……」
「だから参加不参加は自由にしたんだ」





どうかな?と首を傾げた彼を真っ直ぐ見たけれど、彼の表情は少しも変わらない。本当にただそこで私の答えを待つだけのようだ。夏油くんがどんな思いでこの賭けを持ち掛けてきたのかは分からない。私にメリットが無いことを自覚しながらもあくまで私に参加権を与える理由は何なのか、どうしてそこで私が拒否出来るようにもしているのか、その真意は謎に包まれている。だけど、一つだけ、私が知っている事がある。





「……いいよ、夏油くん」
「……本当に?」
「本当に。……夏油くんが聞いてきたんでしょ?」
「それは……そうだけど…………いや、これ以上は野暮だね。始めようか」





レディファーストで。そう言って私に先手を譲った彼の声を聞きながら端の方の砂を両手で線を引くようにしてから外側へと移動させる。まだまだ危なげないのを見ながら、夏油くんも同じように強気な量を削り取る。それを何度かお互いに繰り返して行くうちに徐々に木の周りを囲む砂は減っていき、最終的にはかなり少なくなっていた。両手で掬い取っていたのがいつの間にか片手、指先、と変化して、繊細な動作が求められる中、彼の手はほんの少しだけ震えていた。





「どうして君は……こんな申し出を受けたんだい?」
「夏油くんらしかったから……かなぁ」
「私らしい……?」
「無理矢理じゃなくて決めていいって言う真面目なところとか……ちょっとだけ寂しそうだったとことか、」





その言葉に夏油くんは手を止めて驚いたような顔で私を見た。私が彼のことで知っているのは、この3年間で得た彼との思い出だけだ。夏油くんはいつも真面目で良い生徒だった。呪霊操術を使うときは毎回事前に申請をして、補助監督さん達に無駄な仕事を増やさないようにする丁寧な人だった。それでいて五条くんとは案外波長があって楽しそうにお茶目にしていたり、硝子に対しては女性への根本的な優しさを感じた。でも怒らせると少し大変で中々機嫌を直さないところがあったり、五条くんの作戦で誕生日に彼を徹底的に避けるドッキリをしたらそれなりに落ち込んで寂しそうにしていた時もあった。任務で何かある度に心を痛ませ、辛そうにして、献花を忘れない人だった。……強くて繊細で、優しい男の子。私の知っている夏油傑という人間は、そんな人だった。


だからこそ、私はもう既に決めていた。削られて行く砂は私の緊張を表しているようにも感じた。そっと後ろ手で私の足元にまで伸びた木々の影に触れる。この棒がどちらに転んでも私は、彼を止めなければならない。呪術師としてでは無い、高専の命令なんかじゃない、彼がそうしたように、私がそうしようと決めたのだから。夏油くんは一度目を閉じて深く息を吐き出した。そして、一気に全ての砂を消し去るように掬い取ると、





「…………君の勝ちだよ、捺」





そう言いながら倒れた棒切れを宙へと投げ上げる。そこに現れた空間を切り裂くような"穴"それを視認し、咄嗟に私は彼が投げた棒を掴み、背後に転がりながら触れていた影に呪力を流していく。質量を持って起き上がった影で前からの芋虫のような呪霊の突撃から身を守り、素早くその場に立ち上がる。静かだった公園の木の枝がバキバキと音を立てながら地面に落ち、呪霊は彼の元へと戻って行く。……分が悪いどころの話では無い。私が使役できる影は触れられるだけの範囲にあるもので有限だが、彼が使役できる呪霊は今まで自身で溜め込んできたもの全てなのだ。勝てる戦いでは無い。そんなこと、分かっている。





「私を殺す気かい?……いいよ、かかってきてくれ」
「……本気で、言ってるの?」
「そのつもりだったんだろう?」
「私に、夏油くんは殺せないよ」
「……なら、」





何故?不可解そうに彼は顔を歪める。理解できない、そんな彼の表情に乾いた笑みが溢れた。私と夏油くんでは実力差がありすぎる、彼も理解している筈だ。私に彼は殺せないし、殺すつもりもない。……でも、私は今ここで彼を止めないといけない。止めたいと、思う。これ以上彼が人の道を外れてしまう前に、これ以上彼が苦しまないように。





「私は夏油くんの足元にも及ばないくらい弱いよ……貴方に勝てるイメージなんて、正直全く湧かない」
「……」
「夏油くんの言いたいことも、したいことも理解できる。でも、止めないとダメだと思う」
「……尚更分からない。どうして君は私に……」
「貴方が作ってしまった"遺された人"の吐き出した負の感情……そこから生まれる呪霊をこれ以上増やして悪循環させないためにも。……それに、」








「私は、あなたの友達だから」









一番の理由を投げ掛けた私は、さっき使っていた棒を思い切り手の甲へと擦り付けた。じわりと滲んだ血液を右手の指に付着させ、揺らめいている影に"捺印"するように押さえつける。私が最近編み出した新たな術式の使い方。お父さんのような極論ではなく、一部分を利用した影との契約。これだけで渡り合えるとは思わないけど、今、やるしかない……!!






「"影きょ……"ッ!?」
「…………捺、」






突如、影から引き剥がされた腕。纏わりつくように遊具と私を繋いだ蛇のような呪霊に気を取られているうちに呼ばれた名前に顔を上げる。押さえつけるように厚い掌で口元を塞がれて、困惑する私の前に苦しそうな表情の夏油くんが立っていた。いつの間に、と目を見開いたのを見つつ彼は一声で呪霊を操ると私の使役していた影をたったひと踏みで潰してしまった。あまりに呆気ない終わり。分かってはいたけれど、こんなにも、遠いのか。





「……こんな使い方が出来るんだね、知らなかったよ」
「っ、げと……」
「捺、君は勘違いしている。君の術式は強大だし私は君を弱いだなんて思ったことはない。……今だってそうだ」





それが皮肉なのかどうか分からなかった。今の私は彼に簡単に捕まっているし、捕まっていなかったにせよ大したダメージが与えられていた保証はない。でも、夏油くんの顔は私を嘲るようなものでは決してなかった。寧ろ自虐するような、悲しそうで辛そうで……それでいて、何処か穏やかなものだった。彼は私の腕を捕まえていた蛇と近くに控えていた芋虫の両方を戻し、完全に術式を解除してみせる。夏油くんが何を想っているのか、何故術式を解いたのか、そのどれもが私の理解の範疇を超えて行く。彼本人もまた、ふ、と私の口元から手を離し、血が流れている私の左手の甲を見て眉を顰めた。そして、何処からか取り出した白い布切れでまるで手当てでもするように何重にも傷を覆ってからくつり、と喉を鳴らす。





「……捺に怪我をさせるなんて、悟には許してもらえないだろうな」
「夏油くん、なんで……」
「君の言葉を借りるなら……私が君の"友達だった"から、かな」





優しい声だった。どうして貴方はそんなことを言うんだろう。端を入れ込んで解けないようにしてから「高専に戻ったらちゃんと硝子に治してもらうんだよ」そう言って彼は私に背を向けて公園の入り口へと歩いて行く。もう彼とは会えない、そんな気がして思わず手を伸ばして夏油くん!と名前を呼んだ。一度立ち止まって振り返った彼は眉を下げて何処か申し訳なさそうに唇を緩めて笑う。ひらひら、と手を動かすのと同時に秋風が吹き抜けて長い黒髪が空へと舞い上がる。







「…………悟達を、頼んだよ」






その言葉を最後に彼は既に暗くなっている路地の奥へと迷いなく歩いて行く。自ら闇へと向かうようなその足取りには目に見てるような意志を感じた。私が伸ばした手から離れて行くように、小さくなる背中を、私は追いかける事ができなかった。その場に情けなく座り込んで放心している間にポケットが震えて、見知った名前を確認してからゆっくりと受話器ボタンを押す。あんた今何処にいんの?と珍しく少し焦った硝子の声を聞いたのと同時に目尻を伝うようにして涙が溢れてきた。しゃくりあげて子供みたいに泣く私に「ちょ、」「なに、何があったの?」「ていうか何処そこ」と硝子が困った声で宥めようとしていたけれど、それはもう止まる気配が無い。……ただただ、無力だった。私には何も出来なかった。私以外が居なくなった公園には情けなく鼻を啜り、はらはらと地面を濡らす虚しい音だけが響いていた。






友達"だった"



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