空を見上げれば紺と青が混ざったような色が。前を向けば橙に染まる正円の太陽が。そして、その二つを贅沢に水面に映した海がゆっくりと、穏やかな調子で私の靴の先を少しだけ濡らした。2色が混ざり合う美しい朝焼けをただ眺める私に、背後から軽い調子で声が掛けられる。
「お嬢さん、僕と一杯どうですか?」
ひょい、と目の前に差し出されたのは瓶に入った白い飲み物……そう、ただの牛乳だ。私が何か言うより先に、隣いい?と尋ねてきた彼にゆっくり首を縦に振りながらそれを受け取った。旅館の中に置いてあったものだと思うけれど勝手に取ってきてしまったのだろうか。そんな私の疑問を見抜いていたように「ちゃんと200円払ったよ」と五条くんは笑う。僕が小銭も一応持つ派で良かったね、なんて戯ける姿に少しだけ私も釣られて口角を持ち上げると、彼もまた何処か安心したように小さく息を吐き出した。乾杯、と傾けられた瓶に同じように……乾杯、と返してコツン、と縁をぶつける。一口含んだ独特の味わいがなんだか懐かしく感じた。朝から牛乳を一杯なんて、如何にも健康的な生活だとほんのりと皮肉に思いながらも五条くんに先程高専に連絡したことを伝える。
「……出てきた死体は高専側で回収と処理もしてくれるって」
「流石連絡早いね、朝イチ?」
「そう、これでも補助監督の朝は早いんだよ?」
お見それしました、と態とらしい態度で頭を下げた彼を少し見つめてから、私は素直に「ありがとう」と感謝を伝えた。数度瞬きしてから、何が?と首を傾げた彼に、いろいろ、と言ってはぐらかした私を彼はそっか、とそれ以上は追求しなかった。……私たちは、女性たちの怨念から生まれた呪いを祓ってからすぐに木の根元を掻き出して白骨化した彼女らを見つけた。そこにはもう形式的には呪力が篭っていないと理解していても、無念な気がしてならなかった。この木が血のような赤い実を付けていたのも、もしかすると"桜の木の下には死体が埋まっていて、死体から血を吸うことで桜の花はピンク色になる"なんて通説と似通っていたのかもしれない。今はもうその真実を知ることは叶わないが、私はそう思っている。
そこに彼女達がいるような気がしたのは殆ど勘のようなものだった。でも掘り返してみないか、なんて突飛な提案に五条くんは二つ返事で了解した。あまりに自然と許可されてしまって私の方が面食らったけれど、彼は僕もそんな気がするし、と前置きしてから「お前のそういうの、当たるじゃん」とニンマリと目を細めたのだ。彼が指す"そういうの"には確かに、ある程度自覚はあった。任務をする中で呪術師は恐らく世界にごまんといる呪いにも何となく種類があることを察することがある。ただの悪意に満ちたもの、何かの怒りや悲しみから生まれたもの、純粋故に狂気的なもの……一つずつあげるとキリが無いけれど、私は特に昔から感情に起因する呪いとは妙に相性が良い事があった。
もしそれが、単純にじゃんけんの勝ち負けのような相性なら分かりやすくて助かったが、相性が良い、 というのは言葉通りの意味では無い。呪術師にとっての相性は感受性と深く関わっており、相性が良すぎると反対に呪霊側に肩入れし兼ねないのだ。割り切れず、ズルズルと自分の精神まで引き摺られてしまい、零した染みが洗い落とせず燻っていく。そして、それはいつか自分を飲み込んでしまうことになる。……特に、私たちは身を持ってそれを体感しているからこそ、こういった話題にはつい敏感になってしまう。五条くんが言う通り、私は感情……特に女性の感情が関係している呪いには影響を受けやすかった。補助監督として働き出してからは直接触れる機会は減ったけれど、最近で言えば、五条くんと七海くんの3人で行った北海道での騒ぎなんかも、正直、自意識と繋がりやすかったんだと思う。実際あの日の夜は疲れ切って寝てしまい、五条くんに多大な迷惑をかけてしまったことを今でも後悔している。
「他のカップルは次のバスでみんな空港に帰るってさ」
「……流石の発言力だね」
「そ?僕は捺と2人になりたかっただけなのにね」
少し考え込んでしまった私に話題を変えてくれた彼のその言葉がどんな意味を持っているのか、私には分からない。わかっているのかもしれないけれど、本当にそうなのかは定かでは無かった。……白骨を掘り起こしてからも私達の仕事は終わりでは無い。中々帰ってこないカップルと消えた旅館の夫妻に困惑していたツアー客を何とかして説得する必要があったのだ。一応いくつか私も言葉は考えていたけれど、意外にも五条くんが言った「旦那さんは途中で階段から滑って骨折しちゃって、女将さんがその付き添いに行ったよ」なんて理由で皆納得してくれていた。勿論、はじめは流石に驚いていたが、泊まる期間は特に変わらないので今すぐ帰らなくて良い事とツアー料金が半額になる、なんて私も知らない条件を彼が勝手に付けると寧ろ喜んでさえいた。
予定に無い事態に思わず彼を見上げたが彼にとってはこれぐらい、はした金、という事らしい。これで問題が生じた場合は自分が出すと言って聞かなかった。多分その辺の事実関係は私が高専でどうにかできると思うけれど……また連絡しておかないと、なんて考えつつも、本当にそのカリスマ性でどうにかしてしまった彼には本当に何も文句が付けられない。
こういう時に、彼が持つ人の注目を集める力や、不思議な説得力は凄まじい効力を発揮する。ツアーの関係上、みんな夕飯も食べ終わっていたので、基本的に眠るか最後に温泉に入るかの選択肢しか残されていなかったのも大きな要因だったみたいで、長い時間待たされて疲れていた彼らはそそくさと自らの部屋に戻っていった。
残された私たちは一応館内を見回ったけど、今朝まで数人いた中居さんの姿はなく、廊下やカウンターの裏に身に纏っていた衣服のみが落ちているだけだった。きっと彼女達も祓った蛇のどれかだったんだろう。補助監督として現場の写真を幾つか保存して、ノートパソコンで報告書を書き上げた頃にはもう空は白み始めていた。山にも少し被害を出してしまった事と旅館自体の運営が妖怪……まぁ、一先ず、仮想怨霊のものだった事、白骨死体の今後の処理についてなど、まだまだ連絡を入れるべき事は多い。隣でいつの間にか眠っていた五条くんを横目に見ながらも私は速やかに仕事を全うした。術師の正当な活躍を真摯に記録するのもまた、私の役割なのだから。
……そうして、全てが終わった頃にはもうこんな時間になっていた。今更眠ることも出来なくて、気分転換のつもりで日の出を見に来たら、彼が声を掛けてくれたという訳だ。五条くんの話の通りならばもう直ぐ朝一番のバスか旅館の前に停車して、他の客を乗せて行くのだろう。これを逃せば次が来るのに1時間以上掛かるのは情報として知っている。けれど、何となくまだ、私はここから立ち上がることが出来ずにいた。
「……五条くんは、やっぱりすごいね」
「急に褒めてくれるの?嬉しいけど……今回は捺も頑張ってくれたよ」
「でも、直接祓ったのもそうだけど、アカマタ以外の可能性に先に気付いたのは五条くんだった……あと"約束"も」
「あぁ……アレね。どう?直ぐわかった?」
こくり、と首を縦に振った私は洞窟を抜けてすぐに出会ったキョウダさんが化けていた五条くんの姿を思い出した。勿論ブラフもかけて特定してから作戦を決行したけれど、私は彼が少なくとも五条くんではない事は初めから分かっていたのだ。……そう、五条くんの決めた"約束"のおかげで。
「"肝試しが始まったら手は絶対に繋がない"?」
「そう。僕からも、捺からもね」
「……それはその……どういう効果があるの?」
「向こうは捺にもう目を付けてる。安心させようと僕のフリして接触してくるかもしれないでしょ?特に男はそういうモンだし」
結果的に、彼の読みは信じられないくらいに当たっていた。一瞬私を試しているのかと思うくらいの行動に戸惑ったけれど、その後の質問で彼が五条くんに化けている事が分かってからは、あの約束も馬鹿には出来ないなと思ったものだ。大分助かったよ、思ったままに言うと「僕も捺以外とは手を繋がないって断っちゃったもんね」と五条くんは喉を鳴らして嬉しそうに笑顔を見せていた。五条くんはもう見破った瞬間から全力だったんだろうなと思うとサラギさんには同情したくなる。それに……
「……でも、"赫"はやりすぎじゃない?」
「捺の前で張り切っちゃった!……ってのは半分冗談で半分ホント」
「……どっち?」
「わざわざ上が僕に依頼した任務なんだから一応手は抜かないし、最近は逃げ足が速いのが多いから、ってコト」
五条くんはそう言うと、視線を顔を出し始めた太陽の方に向けると、きゅ、と眩しそうに目を細める。そう言われれば、そうかもしれない。確かに今回の任務は呪霊の階級も正体も分からないところから始まり、分からないからこそちょうど手の空いていた五条くんが指名された。実際蓋を開けてみればアレはきっと二級か準一級程度のもので、五条くんが受け持つには少々簡単過ぎたけれど、だからといって変異しないと言い切れる訳でもない。自分の浅慮を恥じながら「……そうだね」と静かに彼の考えを肯定してからそっと目線を彼と同じように昇る太陽の方へと向ける。
その朝日は以前彼が私に出してくれた"オリンピック"というカクテルによく似ていた。黄色とオレンジが混じり、白い光となって地上を照らすそんな光景は、純粋に美しいと思った。淀んだ気持ちが少しずつ晴れ渡るようなこの日最初に注がれた太陽の日差しと、それに照らされてキラキラと輝く海。一定の感覚で揺れる波の音。自然の全てが私を優しく包み込んでいた。
「捺はさ、」
「……うん?」
「今回の任務、どうだった?」
彼の問いかけにゆっくりと五条くんを見つめた。爽やかな風に吹かれて揺れる髪がキラキラと輝いて息を呑むくらいにまばゆい。五条くんは、いつどんな時でも美しく、そこに存在している。思わず見惚れてしまって直ぐに答えが出なくて、口を閉ざした私に「僕はね、」と彼は続ける。
「楽しかった。凄く」
「……」
「そりゃ祓うときは別に面白くも何とも無い、これはいつも通り。……でもさ、捺が居たから」
「私が?」
「そう、捺が居たから……ここに来るまでも、来てからも、ずっと楽しかった」
ずっとこうしたかったから。と締め括られた言葉に少しずつ、それでいて確かに自分の鼓動を自覚し始める。彼は私が砂浜に置いていた手を上から覆うように自身の掌を重ねた。捺以外とは手を繋がない、と彼がさっき言った言葉が何故かぼんやりと私の頭の中を回る。……思えば、沖縄に来るまでの飛行機でも彼は元気だった。ほぼ無理矢理連れて来られた私は任務の概要が知りたかったけれど、彼のはしゃぐ姿を見ると思わず肩の力が抜けてしまって、五条くんとなら大丈夫かなと思い直した。……沖縄に着いてからもそうだ。初日からお土産を買い漁る彼に最終日の方がいいんじゃないかと提案したり、水着を見繕う彼に慌てつつも本気では止めなかったり、私を見ていたと語る他の客の言葉を否定出来なくて逃げたり、浴衣の彼を改めてかっこいいと感じたり、一緒に、寝たり。少し前では考えられないような出来事だった。他もそうだ。今座っているまさにこの海で子供みたいに騒いで、彼のキスを、拒まなかった。
「……私もすごく、楽しかったよ」
「……ほんと?」
「久しぶりにこんなに……気を抜いて、難しいことを忘れられた」
素直な気持ちだった。暫く続いた東京での事件や高専での強襲、そしてその後処理。打ち込む文章は暗くて重いものばかりで滅入ってしまっていたのに、結果的にこんなにも穏やかな時間を過ごせたのはきっと、彼のおかげだ。……だから、"これにさえ"逃げるのはあまりに不誠実だと思った。五条くんは私の言葉を噛み締めるように何度か首を振ると、嬉しそうに良かった、と呟いた。
「任務自体は殆ど五条くんに任せちゃったから、本当に仕事なのかなって思うくらいには楽しかった、かな」
「……あのね、捺。確かに僕も色々したけど、そこに至るまでを調べてくれたのはお前だよ。捺は捺がすべき事をこなして、その上で囮までやっちゃって?文句無いじゃん」
「そう、なのかな」
「そうだよ。……自分に厳しいのは結構だけどさ、ちゃんと出来た自分の努力は認めてあげても良いんじゃない?」
薄い微笑みを浮かべつつ、真っ直ぐな声で彼に言われた言葉はすとん、と胸に落ち着いた。それは凄く単純で、それでいて私が自分に対してだけは中々出来ていなかったことだった。……先生みたいだね、と思ったままに口にすると五条くんはきょとん、としてからすぐに「先生だからね」なんて顔を綻ばせたことに、今では彼も立派な指導者なんだなぁ、と時の流れの速さを実感する。いや、昔も彼の教えてくれることは結構具体的で分かりやすかったのだけれども、今の伝え方やニュアンスからは彼の培ってきた経験をじんわりと感じて、私も、五条くんも、いつの間にか大人になってしまったんだ、と改めて感じた。
潮騒、と表現するには穏やか過ぎる今日の海は、一定のリズムで引いては、私達の座る直ぐそこにまで寄せ、すーっと静かな音を立てながらまた大海原へと引いて行く。鏡面のような水たまりは雲は綺麗に映すのに光だけは飽和してふんわりと膨らんでいるように見えた。手を伸ばしてほんの少し指先を水に浸からせて、ひんやりと目が覚めるような感覚に微かに震える。暫く私達の間には大地の音だけが流れて、そこに会話は生まれなかった。でも、それは決して居心地が悪い沈黙ではない。お互いにそこに居ることを意識し、感じながらも、何も話さなかった。
「最近、僕のこと避けてたでしょ」
先に口を開いたのは彼だった。ひゅ、と息を呑む。驚きに目を見張った私に、なんで?と問いかけたその瞳は2人の間にあった空間をあまりにストレートに撃ち抜く。……思い当たる節が、あった。バクバクと全てが心臓になってしまったかのように全身から感じる拍動に頭の中が支配されて行く。忘れかけていたんだ。沖縄に来て、2人しかいないこの状況なら、任務のことなら、話すしかないと言い聞かせていたのだから。だが、それでいて尚、五条くんの声は優しく丁寧に発せられていた。私を咎めたいのではなく、ただ純粋に自分が何かをしてしまったのではないかと案じるような声色にもっと胸が苦しくなった。彼が悪いことをしたわけではない、私に彼と向き合う勇気が無かった、それだけなんだ。
言い訳しようとした。都合のいい言葉を探そうと頭を回した。でも、彼の混じり気なく澄み渡り底が見えない瞳の奥に確かに感じるひたむきさや、焦がれるような熱のある光から私は目を逸らせなかった。そして更に深いところに、そんな想いの根底に映し出されるのが"私"であることに気づいた時にはもう、既に私は吐き出していたのだ。
「……五条くんは、私のこと、好きなの?」
次に目を大きくしたのは彼の方だった。五条くんが一度瞬きをするうちに波が今までよりも広い範囲で押し寄せて、私は咄嗟に重なっていた彼の手を握り後ろへと2人で転がるようにして五条くんを引き摺りながら逃げた。慌ててもう一度彼を見て濡れていないかを確認しようとしたけれど、それよりも先に彼はぎゅっと繋がったそこに力を込めて「……すきだよ」と言った。少し揺れた、あどけなさの残る柔らかな声は一瞬で読み取るにはあまりにも色々な感情が込められていて、つい、押し黙ってしまう。聞いておいて、私はそれにどう答えていいのか、どうすべきなのかなんて、何も考えられていなかったのだ。
なんて、無責任なんだろう、と自分の煮え切らなさと戸惑いが込み上げ、溢れ、なんだか泣きそうだった。だけど、五条くんはあまりにも優しい顔をしていた。何よりも大切なものを向けるように微笑んでいた。どうしてそんな顔を私に向けられるのか、不思議で不思議で、仕方なかった。彼はそっと私の後頭部に手を回すと、そのまま自分の胸元へと引き寄せる。
「……よかった、ちゃんと伝わってて」
速過ぎず、遅過ぎない彼の心臓の音が直接伝わってくる。噛み締めるように呟かれた言葉には皮肉な響きなんて一切なくて、寧ろ、親身で温かく、安心したような調子が込められていた。五条くん、と思わず彼の名前を口にして、胸元から見上げるように彼を見つめて。彼はそっと私の目尻をなぞってから、まるで眩しい光を覗き込むみたいな柔らかな目付きで捺、と私を呼び返した。
「でも、だって……っ、わたし、」
「捺。俺はさ、ずっと考えてた。どうすれば俺が、お前のこと好きだって気持ちが伝わるのか、ずっと」
「ごじょう、くん……」
「それが今、ちゃんと分かって……めちゃくちゃ安心した」
五条くんは笑っていた。ほっと気が抜けたように落ち着いた、静かな微笑みで私を受け止めていた。2人しかいない砂浜で、いつしか昇りきっていた太陽の下で彼は曖昧な私の感情全てを肯定したのだ。それがどれだけ大きくて、どれだけ優しいことなのか、最早想像が付かない。我慢出来ずに歪んだ視界にクツクツと喉を鳴らして「泣くなよ」と彼は私の涙を拭った。
「これでも結構我慢強いって知ってた?待つのには慣れてんの」
「っ……」
「俺の気持ち分かってんなら後は、捺に俺を好きになって貰えばいいだけじゃん」
震えた唇をこじ開けようとした私の前に人差し指を立てて、しーっ、と息を吐き出した五条くんは悪戯っぽくニヤリと笑顔を浮かべる。あまりに今の状況に似つかわしくない仕草に呆気に取られた私に「返事は"はい"って答える時だけね」と囁くような、それでいて自信に溢れ、得意な響きで彼は言う。なんて、勝手で、なんて彼らしい言い分だろうか。自分の頬に涙が伝うのを感じながら、口の隙間から小さな笑い声が溢れた。同じように五条くんもけらり、と明るく笑いながら空を見上げ、沖縄って最高だな!と声を上げる。
「……あ、そうだ。星の砂追加で買って帰らないとね」
「あ、うん……儀式で使っちゃったから」
「そうそう2つ分ね」
「うん、誰の分なのかは分かんないけど……」
「……ね、捺」
「ん?」
「俺、頑張るから」
……うん、と今度こそしっかりと首を縦に振った。五条くんもそれに合わせて頷くと帰る前に最後何食べてく?なんて空港についてからのことを話し始める。焦らなくていい。まだ私達を運ぶバスが来るまで30分はあるし、それに……私と彼が共に過ごす時間はまだ沢山あるんだから。焦っていたのは彼ではなくて、私だったと気付かせてくれた五条くんが、あの彼が"待ってくれる"のだから。少しずつ答えを出せばいい、そうやって考えることが出来て、凄く気が楽になった。
沖縄そばがいいなぁ、とぼやいた私に隣でいいね!と嬉しそうな同意の声が上がる。良いお店調べないとね、と五条くんを見つめた私に彼は捺の得意分野でしょ、と人懐こく笑った。